すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

明治座『市川猿之助奮闘歌舞伎公演』

【はじめに】
記事にするかどうか、とてもとても悩みました。いろいろ考えた末、自分のための記録として残しておこう、ということにしました。書き手の解釈はひとつしかないけれど、読み手の解釈は、その読み手の数だけある、ということを忘れないようにして、この記事を書き始めようと思います。
5月14日、5月21日、5月28日と、全てのパターンを見ることが出来ました。21日以外は、もともと観に行く予定で、切符を買っていました。

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【期待】
宝塚オタクの間では、植田神爾先生作・演出の作品は『植田歌舞伎』と、少しの皮肉を込めて呼ばれていることがあります。植爺(と呼ばせて頂く)は元々東京の人で、歌舞伎ファンで、ということもあり、最大のヒット作『ベルサイユのばら』は歌舞伎的手法がそこいらに見られます。長谷川一夫氏が所作指導に入っているから、ということもありますが、有名な今宵一夜のシーンは、ほとんど歌舞伎の様式美です。歌舞伎を見るようになって良くわかります。そんな植爺が、本当に歌舞伎にホンを書いていたなんて知らなんだ。
澤瀉屋って、なんか宝塚と親和性が高い気がする。「歌舞伎界の中で、いちばん宝塚っぽいお家はどこですか」と聞かれたら、「澤瀉屋」って答える。
歌舞伎と宝塚を兼ねるオタクにうってつけの演目でしょ。ということで、宝塚で出会ったお友だち数人で総見を企画しました。
『御贔屓繋馬』は見たことがなかったのですが、『蜘蛛の絲~』は歌舞伎座で見たことがあります。まだコロナ禍真っ最中だったよね。頼光の病が、「例の流行病」ということになっていました。
新人公演、じゃない花形公演は、わたしが隼人さんの顔ファンであることをよく知っているお友だちが「もちろん見るよね」とチケットを取ってくれました。
こんなことになるとは1ミリも思わず、とても楽しみにしていたのです。


【不死鳥よ波濤を越えて】
これが歌舞伎だとも宝塚だとも言ってはいけないと思うのですが、両者の文化がぶつかっていて、兼ねるオタクとしては超面白かったです!シナリオや登場人物のことは、いろんな人が言及していると思うので、わたしが面白いなと思ったところを残しておきたいと思います。
歌舞伎役者が歌い出すので、15分に1回くらいのペースでびっくりする(笑)結構歌うんです。幕開きで、いきなり猿之助さんのソロですから、本当に宝塚のコード全開なんです。女方の壱太郎さんが、女声のまま歌い出したのもびっくりした。そのまま歌えちゃうんだ!
植爺の作品って、必ず拍手を待つ間があるのですが、この作品にももれなく拍手を待つ間があって、宝塚オタクのわたしは、『みんなが拍手入れないけど、宝塚だったら絶対拍手表に入れられる場所』で爆竹拍手を入れそうになって焦りました(笑)2番手が出てくるタイミングと間が、めちゃくちゃ宝塚なのよ~~。1回目に見たときは入ってなかったけれど、2回目に見たときは入ってた。なんだみんな入れたかったんじゃん(笑)
シナリオに言及しないと言っておきながら言及しますが、見れば見るほどトップスターさよなら公演仕様で、『猿之助さん退団しちゃうの?時期トップは隼人さんなの?壱太郎さんはあと一作残るの?』と思いながら見た。白い衣装で若手に「死んではならない」と言い残すトップスター。トップスターに泣いて縋り付く若手(福之助君は研5くらいで組替えが決まっているの?)次期トップの見せ場がしっかり用意されている。2番手の腕の中で死ぬトップスター。天国でのデュエットダンスがある。白い衣装で宙乗りして、天に昇ってゆくトップスター。
『この組充実してんな~~』と思った。組替えでやってきたグッドルッキングガイ2番手(隼人)がいる。純真な娘から、悪女まで熟せるトップ娘役(壱太郎)がいる。アクの強い悪役ができる別格男役(下村青)がいる。トップ娘役より学年が上の2番手娘役(笑也)がいる。歌の上手い上級生(猿弥)がいる。芝居の上手い組長(鴈治郎)がいる。副組長(笑三郎)も芝居が上手い。将来有望な新公ヒロイン(男寅)がいる。宝塚でこんなに充実した組は、いつも見られるわけではない。
いちいち宝塚変換して見るのが楽しかったです(笑)


【御贔屓繋馬~蜘蛛の絲宿直噺】
なんでもかんでも宙乗りすりゃいいってもんじゃないな~って思った。宙を歩くときの姿の美しさとか、生き返った人の不気味さとか、そういうのは感じられたのですが、どうしても宙乗りにはカタルシスを求めてしまう。序盤で見せられても、ちょっとポカンとしちゃうなあと思いました。燃えている衣装は格好良かったです。
お話は難しいこともなく、鶴屋南北っぽさもあって、楽しかったです。春にやっていた『新・陰陽師』と役名が被るところがあって、ちょっと混乱しました。
後半の『蜘蛛の絲~』の方がわたしは楽しくて、芝居よりもショーが好きなわたし向けの演目だったと思います。コロナ禍真っ只中に見たときより、舞台の濃度が濃かったように感じて、楽しかったです。猿之助さんのチャーミングさが炸裂していました。あのかわいらしさ、スターらしさ、愛嬌は、唯一無二のものだと思います。掛け替えのない芸。


【不死鳥よ波濤を越えて 代役:市川團子
代役のニュースが飛び込んできたとき、ゾッとしたのを思い出します。松竹は、歌舞伎は、19歳の彼に、どれだけの重荷を背負わすんだよ、とおそろしかった。まさか、いくら血の繋がりがあるとは言え、未成年にやらせるとは思わなかった。
宝塚で例えるなら、別箱公演中のトップスターが倒れ、その作品に出ていない研2の路線が、たった1日の稽古で、代役公演に出演する。みたいなもの。
「團子ちゃん頑張ってる~~!!」っていうレベルを遥かに超えていて、なんか見ているだけで泣けた。幕開きの、せり上がって扇から顔を見せる瞬間に「俺が澤瀉屋だ」という気迫に満ちた視線、オーラ。圧倒される意外に言い様がないです。もちろん、まだ声に重みがなくて、碇知盛の場面は追いついていないところ(一生懸命さはあるけれど、所作に段取り感があった)もあって、勢いで場面を引っ張っているところもあったように思いますが、凄かった。あまりに團子ちゃんが素晴らしすぎて、見ていると胸が張り裂けそうになるので、青いマントの彼(隼人さん)のイケメンさを見て心を落ち着けていたのは、隣で一緒に見ていたお友だちも一緒でした。
『歌舞伎界のピンチに、若きスター誕生!』みたいな取り上げられ方をされるのがわたしは気に入らなくて、なかなか記事が書けませんでした。團子ちゃんは素晴らしかったけれど、これを美談にしてはいけないと思います。
友だちと涙を拭きながら劇場を出た瞬間、複数の記者に囲まれたのが、大変不愉快でした。若いファンだから目立ったのかも知れません。記者の女性の、あの取って付けたような気の毒そうな顔がなんとも不愉快だった。取材はすべてお断りしました。そんなに劇場の中が気になるなら、自分でチケット取って、自分の目で見て、記事にすりゃいいじゃん。


【御贔屓繋馬~蜘蛛の絲宿直噺 花形公演】
お友だちが取ってくれた花横のお席が素晴らしすぎた!花道を走り抜けていく隼人さんの風を顔面で受け止めることができた。こんなことがあっていいの。宙乗りで、天に向かっていく隼人さんの足の裏がよく見えた。イケメンの足裏をこんなに見ることなかなかない。気持ち悪いこと言ってないで、ちゃんと内容について書きますね。
本来なら1回限りの花形公演でしたが、急遽代役公演が決まって、何度も公演を重ねていたからか、妙な緊張感やハラハラした雰囲気はなく、落ち着いた公演だったと思います。逆に、客席の方が身構えている雰囲気があったな。これはなんていうか、仕方がないよね。
落ち着いている、安定感がある、とは思いつつも、早替えで、袴がズレているのを見つけたときは少し「ふふ」となった。意地悪でごめん(笑)
禿ちゃんは「なるほどね!仕方ないよね!」と思いましたが(失礼)芸者さんはとても綺麗でした。隼人さんの女方って初めて見た。なにせファン歴が浅いもので・・・。
通常、歌舞伎にはカーテンコールはありませんが、隼人さんが終演後舞台に出てきてくれました。本人の言葉を受け取って、「これは簡単にシェアしていい内容じゃないな」と思ったので、内容については触れません。
しかし、歌舞伎の1等席は本当に治安が悪いですね。客席係が注意して暴れるレベルの客なんて、もはや客ではないのだから、つまみ出せばいいのにな。それとも、明治座がこのレベルは許容範囲って判断したって事なのかな。しばらく1等席はいいや・・・(刀剣乱舞は大丈夫だと信じている)