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からしがみたものをまとめたものです。

歌舞伎座『壽初春大歌舞伎』-義経千本桜(川連法眼館の場)-

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【主な配役】

佐藤忠信実は源九郎狐/市川猿之助
義経/市川門之助
静御前/中村雀右衛門

【所感】

川連法眼館の場、通称『四の切』が憧れの演目であることは、こちらの記事で言及しています。
karashi-channnel.hatenablog.com

2020年の12月に、歌舞伎座中村獅童さんの源九郎狐を観ています。今思い返せば、こちらは宝塚で言うところの新人公演のようなパッションが溢れた演目だったのだなあ。同じ演目なのに、全くの別物でした。澤瀉屋の演出である宙乗りがあるからではなくて、役そのもののあり方というか、カラーというか、質感が全然違う。いずれも素晴らしい観劇体験だったけれど、胸に残るカタルシスというべきか、ぬくもりが全くの別物だったのです。またひとつ、歌舞伎を観る楽しさに目覚めたような気がします。こうやって役者の表現の違いを楽しむのね。

猿之助さんの狐が楽しみだったのは、『弥次喜多』で「ここで必ず足を踏ん張るんだ!俺は何百回もやってるからわかるんだよ!」と言っていたので、本当に出の時に定位置に足を置いて踏ん張っているか観たかったから(ちゃんと踏ん張っていた)でもやっぱり、レジェンドになりつつある、その評判を聞いていたから、憧れていたんだろうな。『ワンピース』の時に大怪我をされて、もう観られないんじゃないかって思っていたから、猿之助さんの狐に会えたのが嬉しかった。

忠信の落ち着き、佇まい。存在しているだけでも放たれている鮮やかなオーラ。スターのオーラでした。こんな人物に化けようとした狐の意地らしさ可愛らしさが微笑ましくてニコニコしてしまう。

狐って、素人が見てもわかるくらいに超絶技巧の連続で、やることがたくさんあるのに、猿之助さんの狐には、ハクハクしたところが一切ないのが素晴らしい。本当に魔法なんじゃないの?ってくらいに全てが滞りなく鮮やかでスピーディー。大人の目も騙されるようなケレンの連続にワクワクしっ放し。
派手な演出だけではなくて、お芝居もとても繊細だった。狐が鼓をもらって喜んでいる姿、コロコロと鼓を転がして戯れている姿を見て、昔飼っていたお犬を思い出して泣きそうになった。心から「良かったね」、という想いが湧き出て溢れてくるような。

宙乗りを下から見上げるお席でした。吉野の山に嬉しそうに帰ってゆく姿を見守りながら、拍手をしている時に、お腹の中が温かくなって、いろんなものに感謝したくなるような気持ちが湧き上がってきました。この時のわたしは、しあわせが湧き出てくる瞬間を知覚しながら、お芝居の世界と一体になっていたのだと思います。狐が見えなくなって、桜吹雪が舞っているのが見えた時、お腹の中にあったモヤモヤとか、憂さみたいなものが、パッと晴れたのがよくわかりました。終演後、チケットを取ってくれたお友達に、目に涙を溜めて、精一杯のお礼を伝えていました。

あとさ!!猿之助さんウィンクしてきたんだが!!がっつり被弾したんだが!!好き!!!!
猿之助さんのウインクがどれだけ破壊力があったかというと、明日からガードしちゃうくらい凄かった。東銀座でスクワットだ!!(ヅカヲタならわかるよなっ!?)

雀右衛門さんの静御前は、当然落ち着きがあって、姫姫しさと気高さがあって、芝居に厚みがありました。ラストシーン、吉野の山に帰ってゆく狐を見上げるやさしいお姫様の表情が良かった。
門之助さんの義経は、威厳と力強さがあって、狐に鼓をあげるところで、彼の優しさを何倍にも感じられた。こちらも、芝居に厚みがあった。

【他の演目】

第一部の『一条大倉物語』『祝春元禄花見踊』と第三部の『岩戸の景清』も観劇しました。
『一条大倉物語』は、以前に見たことがあって、ストーリーは頭に入っているものの、どうにも時代物のテンポが肌に合わず、楽しみ方がわからなかった。面白いと感じるところはあるのですが。これから歌舞伎を見続けてゆくうちに、きっと時代物の面白さに目覚める日が来ると信じているので、その日を楽しみに待ちます。

『祝春元禄花見踊』は、小川陽喜くんの初お目見得でしたね。初お目見得というものを初めて見ました。幕が開く前から「おはようございます!よろしくお願いします!」のかわいい声が。陽喜くんの奴さん、おもちゃみたいに小さかったけど、キビキビしてた!殺陣もやってた!でも、刀がなかなか鞘に収まらなくて、黒子さんが大活躍だった。へえ〜、これが初お目見得ってやつですか。3歳の子が舞台に立っているのは、もちろんかわいいとは思うのだけど、心が痛むところもあった。本人が楽しくやってるなら良いのだけど、まだまだイヤイヤする時期だと思うし、ほんと無理させないでほしい。『本日ぐずっている為休演します』とかあっても良いと思う気持ち。

第三部の『岩戸の景清』はお芝居仕立てのショーって感じだった。まるると隼人さんを組ませた人にお年賀をあげたい。

【今年もよろしくお願いします】

宝塚ばかり見ている人の歌舞伎の感想記事ですが、検索からアクセスして下さる方も多く、こんなど素人ブログに足を運んでいただけるなんてと、大変恐縮しております。

当たり前の事なんだけど、映像で何百回観る舞台よりも、1回きりでも生で観る舞台に勝る物はないですよね。どんなに技術が進歩しても、時間と空間と経験は、肉体以外の器には保存できない。できっこない。主客が交じり合う空間が劇場というもので、わたしはそれを愛しています。

そんな感じで愛しているものを、今年も楽しく綴ってゆけたらいいなと思っております。

本年もよろしくお願いいたします。