【期待】
トップスター珠城りょうと、美園さくらの退団公演。お芝居の脚本・演出は上田久美子。そんなの期待しないわけないじゃないですか。安心しきってチケットを取りました。初日のTLの盛り上がりっぷりにはガッツポーズでした。唯一の不安材料は、わたしが南北朝時代にちょっと弱いということ。時代設定を聞いて、誰ひとりとして教科書に載るような人物が思い浮かばないレベル。足利尊氏と聞いて「あーあー!そうそう!」となるレベル。実際に観劇したら、非常にシンプルな人間関係で、すぐに世界観に入り込めたんですけどね。
珠城りょうといえば、若くしてトップスターに就任した、タカラジェンヌ人生としても希有な、ドラマのあるスターさんだと思うのです。その上、珠さまと自分には共通点があるので、勝手に親近感を感じたり、「珠城りょうがトップスターとして頑張っているんだから、わたしも頑張ろう」と勝手に自分を鼓舞したりしていました。
宝塚ファン人生としても、このような共通点を持った人、つまり同年代の人がトップスターになり、卒業してゆくって、ひとつの印象的な出来事だと思うんですよね。憧れのおねえさんだったタカラジェンヌやトップスターが、どんどん年下になってゆく。年齢世代関係なく、タカラジェンヌは皆、清く正しく美しくいてくれますけどね。
わたしの期待はこんな感じです。絶対に1回で観きれないから、ムラの中継を観た上に、もう1回増やした自分を褒めてあげたいです。
【桜嵐紀】
大河ドラマ1年分を観たかのような重厚感がありました。宝塚の日本物スキーとしては、大満足の一作。
この時代に生きる人たちの心情に寄り添えるような脚本と演出、そしてお芝居が本当に素晴らしかった。南北朝という戦乱の時代に生きる人たちの価値観って、現代の我々とはかけ離れていて、ちょっぴり置いてけぼりを喰らうこうとがある(つまり歌舞伎の時代物のような)のだけれど、『桜嵐紀』は登場人物の気持ちがとても身近に感じられる。登場人物それぞれの気持ちが、自分事として触れられるような感じ。かといって、現代的な価値観のあるところに泣きの芝居を入れ過ぎると、キャッチーになり過ぎてしまうと思うのだけれど、この作品はバランスがちょうど良かった。
そしてなんといっても、後半にかけて突然に刺激されてしまう涙腺。前半がわりとキャッチーに、軽快に展開されるので、後半に差し掛かってからの怒濤の涙にびっくりするんだよね。キャラクターの作り込みがしっかりしているから、作品への没入感がとてもナチュラルで、自分の感情もとてもナチュラルに湧き上がってくる。
感情の波が『スプラッシュ・マウンテン』なんですよ。前半ほのぼの楽しいな~で始まって、後半「あー!」「ぎゃー!」っていう。いまいち伝わらない気がするけど、そんな情緒で観てました。
お着物のセンスも良かった。着物は、一枚の絵画を身に纏うものです。特に最後の幕切れの場面は、とても華やかで美しかった。卒業するトップスターさんの最後の場面が、華やかで鮮やかであればあるほど、宝塚らしさを感じられて嬉しくなります。
やっとフルメンバーで観られるお芝居も迫力があった。戦場の場面は見応えがあって「そうそう!これだよ!」って思った。ショーでも人数で圧倒される感じがあって、大好きな宝塚のかたちが取り戻されつつあるのが嬉しかったです。
【キャスト】
それでは、印象に残ったお役とキャストについて。順番は適当です。
楠木正行/珠城りょう
兎にも角にも、格好良い。さよなら公演でここまで格好良いって、最後の男役姿がこんなにも格好良いって、ファンとしてはしあわせの極みですよな。
格好良い正行にも、いろんな表情を見せてくれるのも、ウエクミ作品のサービス精神だと思いました。三人兄弟の長男としての顔、もののふとしての顔、ひとりの恋を知る青年としての顔。特に、「行きまひょか」の後、内侍の手を引いて、花道を恥ずかしそうに目を伏せて捌けてゆくところなんか、とってもツボでしたねえ!下手タケノコ席に座ったときは、引っ込むまでじっくりと見てしまった。「ひゅーひゅー!」って言いたかった(ダメです)最後の場面も、下手の花道から捌けてゆくのですが、その正行の死にに征く視線が厳しくも美しくて「絶対に忘れない」と思った目の色でした。そして、恋を知って愛を知って、吉野の桜を「美しい」と讃える正行が、本当に輝いていた!狩衣姿の珠城さんも発光していた!
珠城りょうといえば、『結婚したい男役No.1』だと思うのですが、『長男っぽい男役No.1』でもあったんだな。長男の、父親への想いの強さって、次男三男とは違う気がするんですよ。そこの覚悟とか、背負い込んでいるものの感じが、武士っぽくてよかった。武士っぽくて、硬派が故に、最後の言葉は「ひとりの女だけにやりたいんや」だからね。たまらんよね。
日本物の所作のなかで、開いた脚を、足首をぐりぐりっと動かして閉じるやつが歌舞伎でも大好きなんですが、珠城さんのそれも、力強くて格好良かったな。
この作品の美しさと言ったら、やっぱりラストシーンだと思うんです。わたしはあの場面を『弁内侍の記憶の中の、最期の楠木正行』だと思っています。一枚の美しい絵のようなあの場面、本舞台から離れてお別れを伝えるトップスター。後村上天皇の「帰れよ」の台詞の入り方の絶妙なタイミング。コーラス。ゴージャスなオーケストラ。それは、『ファンの記憶の中の、珠城りょうの最後の男役姿』になるのだなあと思うと、宝塚歌劇体験の濃厚さと、一瞬の強い煌めきを愛おしく感じずにはいられません。
弁内侍/美園さくら
めっちゃ公家っぽい。さくらちゃんのお顔の輪郭がとても公家っぽい。硬質な雰囲気と線の細さが、さくらちゃんの持ち味とマッチしていたと思います。
めっちゃ公家っぽいのに、大根の切り方がワイルドなところが好き(笑)渡辺橋で、敵兵の手当をするなと怒っている内侍ちゃんが好き。「斬れと言った覚えはない」(記憶が曖昧)と食い下がる内侍ちゃんの気の強さがかわいい。既に正行に惚れているから、足を見られても怒らない、正儀との扱いが露骨に違う内侍ちゃんかわいい。内侍ちゃんは中宮さまに正行のことが気になるとか話したんだろうか。キャー。
正行と一緒になりたいけれど、もののふの彼を止められない。追いかけたいけれど追いかけられない。この時代の女性のどうにもできない想いが、このせつなさが、とても身近に感じられました。これって、結構難しいことなのでは。こちら側の気持ちが置いてけぼりにならないさくらちゃんのお芝居が、とても良かったです。
楠木正儀/月城かなと
前半はボケとツッコミを一人でやる愉快な役だなあと思っていました(笑)人懐こい感じが三男坊っぽいよね。そしてその三男坊っぽさは、年老いても健在であるという。
後半にかけての、トップスターさよなら公演にあってほしい『2番手の後継者としての演出』が、本当に涙を誘います。正行に「お前がやれ」と言われてしまった時の正儀の、ちょっとショックそうな顔が印象的で、それを確認したときは涙が止まらなかった。あの場面、楠木ファミリーの芝居が下手で継続されたままで、それを横目にこの場面を見るのがしんどかった。ほんで、楠木の歌ですよ。泣かずにはいられなかった。
れいこちゃんは、雪組の下級生時代から、とても声が利く人だなと思っていました。見た目の美しさも好きだけど、れいこちゃんの声が好き。聞き取りやすくて艶がある。れいこちゃんの「兄貴ぃ」が好きです。トップスターの月城かなとさんにも期待しています。観に行きます。
楠木正時/鳳月杏
鍋奉行なのかボケなのか、と思っていたらロマンス担当だった(笑)ウエクミ作品あるあるの、動物の小道具、今回は猪の丸焼きでしたね!前回(金色の砂漠)はめっちゃデカい鳥を撃ち落としていたちなつ、今回は猪を丸焼きにしていた。正時には、ちょっとひょうきんな雰囲気があって、それがちなつの任に合っていて楽しかった。
海ちゃんの百合とのエピソードは全部良かった。義父と義弟を斬るところのやるせなさも良かった。春海ゆう君と英かおと君も良かった。
珠城さんの腕の中で死んでいった、最後の男役さんとなられたちなつさん。ちなつ、月組に帰ってきてくれてありがとう、って思ったよ。
高師直/紫門ゆりや
最初誰だかわかんなくて、5度見くらいした。ロイヤル91期の紫門ゆりやさんであることを、脳が認識するまで15分くらいかかった。
大河ドラマだったら香川照之、歌舞伎だったら市川中車、コクーン歌舞伎だったら笹野高史がやるような役を、いつも王子様みたいなゆりちゃんが!?本当に素晴らしい快演だった。役者がもう一人増えたみたいだった。だって、声の出し方からして、いつものゆりちゃんと違う。びっくりすると共に惚れ惚れした。あまりにも素晴らしかったので、彼女は何かしらの賞を貰うべきだと思う。
ショーでいつものゆりちゃんが確認出来たときは、心底ほっとした(笑)納得の専科異動です。いろんな組で活躍するゆりちゃんを楽しみにしています!
ジンベエ/千海華蘭
とてもとても泣かされました。からんちゃんも振り切ったお芝居で、正行との別れの場面ではおいおい泣きながら捌けていくので、今も思い出しながら泣きそうですわたし。
年老いるまで内侍に仕えたジンベエは、旦那の命令をずっと守っていたということでしょう。泣ける。
楠木正成/輝月ゆうま
こんなに甲冑が着こなせる男役さんいないと思う。甲冑に負けてないし、嘘っぽくないのが凄い。なにをやっても上手なまゆぽんですが、迫力の仏倒れまで見せてくれて、芝居への心意気が素晴らしいと思いました。
専科生になって、いろんな組で活躍されるのを期待しています!
百合/海乃美月
いいお嫁さんだったと思うんですよ百合は。正時が百合に離縁を言い渡したとき、とてもショックを受けていた楠木家の母・久子(香咲蘭)に気が付きました。きっと、仲の良い嫁姑だったのでしょう。そういう人間関係が見えるお芝居の深さが素敵だなぁと思いました。
後村上天皇/暁千星
泣いた。泣ける。本当にお優しい。おかわいそう。月組の御曹司として順調に育っているありちゃんの立場と、後村上天皇の境遇が重なってしまって、たいへんに大変だった(?)
前作(ピガール)では物足りないと感じていたありちゃんのお役ですが、今回は本当に良かった。確かに彼女はダンサーですが、深みのあるお芝居が出来る役者でもあるのですよ。そこで「帰れよ」のあの台詞ですよ。芝居の全体を引き締めるあの台詞ですよ。素晴らしかった。
足利尊氏/風間柚乃
おだちんが研10以下だなんて信じられない。ってみんな思ってることだと思うんですけどね。なんか迫力があるんですよね。突撃家庭訪問(笑)の時の「ますます惜しうなったわい」とか、この学年で言いこなせる人いないと思う。あと、ヒゲがめちゃくちゃ似合っていた。
後醍醐天皇/一樹千尋
ヒロさんめちゃくちゃ歌舞伎っぽかった。登場の仕方も歌舞伎っぽかったし、台詞回しも歌舞伎っぽかった。でも、エチオピアっぽくもあった。
楠木正儀(老年)/光月るう
ネタバレもせず、プログラムも見ずに観たので、徐々に正体がわかってくる演出に「くっそー!ウエクミー!!」って思いましたね。ちょっと『翼ある人びと』を思い出しました。
れいこちゃんの正儀と、るうさんの正儀が同一人物だということにとっても納得する。だって、れいこちゃんの正儀も客席に話しかけてきそうな感じあるもん(笑)
タケノコ席に座ったとき「るうさんに話しかけられちゃう!」とドキドキしながら幕開きを待ちましたが、指名されたのは隣の隣の人でした。その人がリアクションするまで芝居が進まないんですね(笑)その感じも正儀っぽいなあと。
弁内侍(老年)/夏月都
なっちゃんのお芝居大好きなんですが、今回も好きだった~。るうさんとのお芝居で「あなたの泣き顔を見たら」と言われて、少し切なそうな顔をするのが好きでした。
饗庭氏直/結愛かれん
みんな大好き花一揆。かれんちゃんがあまりにも自信満々なので、その自信満々さが癖になる~~。突撃家庭訪問(笑)の時の自信に満ちあふれた氏直が好きでした。
【Dream Chaser】
第一印象が『ソーラン節を踊らない叫ばないVIVA FESTA!じゃん』だったのですが、組の個性によって既視感はねじ伏せられました。
主題歌が明るくて覚えやすくて、耳に残るのが良いですね!宝塚のショーの主題歌らしくて好きです。何回も使われてたしね。そのクドさ愛してる。ライティングも印象的でした。ちょっともう激しすぎでは(笑)生徒が見えないんだけど(笑)と思う場面もあったけど、宝塚のtoo muchな感じを愛してるので問題ないそれで良し。
そしてやっぱり、フルメンバーでのショーは迫力が違う!観たいところがいっぱいあって、目が足りなくなるこの感じ、待ってた!そして、ロケットがスカスカじゃなくて、静かに感動しました。
前方席に座ったとき、プロローグで絶対に珠城さんと目が合ったと思うんですよ。珠城さん、目ェ細めて、鼻をくしゃっとさせて笑ってくれたもん。本当だもん。フルメンバーになったことによって「視界いっぱいに華やかなタカラジェンヌ」という景色を味わえて幸せでした。主題歌も裏打ちの手拍子で楽しかったです。
スパニッシュの場面。ちなつの脚が長すぎてわけがわからんことになっていた。ありちゃんが急に下手に消えたので、ナイフを取りに行ったと思いきや、行ったきり帰ってこなかったので、すごくびっくりしました(月組ショーは治安が良いな)
消えたありちゃんが別の男になって出てきたミロンガの場面。見所がありすぎて、目があと8つ欲しかった。ありちゃんのツーブロめっちゃ格好良かった・・・。
ストップモーション中に、すんごいリフトしている男役さんは大楠てら君だし、わたしが気になって追いかけちゃう男役さんは彩音星凪くん。覚えた。
たまありのすんごいリフトは、間近で見ると迫力がすんごかったですね。ハイレベルな組体操みたいだった。凄すぎて思考停止した。
I'll be back.かなとの場面。照明が凄すぎて、逆光になっちゃって生徒のシルエットしか見えなくなっちゃった時はちょっと笑いました。わたしの目の前が立ち位置だった男役さんが、隙あらばウインク飛ばしてて感心しました。名前がわからなくて残念・・・。どなただったんだろう。
中詰はソーラン節始まるかと思ったけど、違った(笑)ここもたっぷり主題歌を歌っていて楽しかったな~。でも、銀橋の立ち位置をプロローグと逆にしてほしいという妙に細かい注文を思いついてしまった。
白い衣装着て、なんやかんやあってみんなで大合唱する場面。そうそう宝塚のショーあるあるな場面です。何がどうなってそうなったのかはわかりませんでしたが、組子のみなさんが楽しそうで何よりでした。
珠城さんにハグされた人の叫び声がマイクに乗っちゃってたのかわいかったな(笑)
暗転してキラキラ音がするので贔屓がせり上がって来ちゃうかと思ったら、おだちんが出てきた。おだちんの額にはらりと落ちた二本のシケがとても美しかったですね。忘れてはならない光景だと思います。
娘役の場面があったの嬉しかったな~。ここのさくらちゃんのドレスがとても素敵でした。スカートの一部がシアー素材になってて、大胆に脚がチラ見えするんだけど、とても上品なの。腰の辺りの飾りも素敵だったな~。さくらちゃんと海ちゃんのアイコンタクトも素敵でした。月娘かわいい!
ロケット前半の総踊りの時、「今日はこの子を応援するぞ~」と笑顔が素敵な名前も知らないひとりを決めて、脚上げの時に「あなたのために拍子します」と心に誓って手拍子してることがよくあるんですが、わたしだけでしょうか。
黒燕尾はたっぷり、見応えがあって良かった。珠城さんの黒燕尾姿は、大きな手が素敵だと思っていたので、それを存分に見せてくれる振りで大満足でした。デュエットダンスはゆったりとした、余白を楽しむような振り付けで、生オケの存在もあって、夢のような空間になっていて良かったです。餞別場面では、ゆりちゃんのやさしい微笑みで涙をボロボロ流していました。