すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

南座『河庄』『女殺油地獄』『忍夜恋曲者・将門』

f:id:karashi-channnel:20240317143813j:image

【期待】
観に行かない選択肢はなかった。こう言っちゃうと、趣味が悪く聞こえそうなんですけど、『女殺油地獄』が大好きなんです。仁左衛門さんの一世一代の映像を何度も見ているし、いつかのクリスマスイブには愛之助さんの与兵衛を南座まで観に行っているし(なんでブログに残していないんだわたしよ・・・)ハマりすぎて文楽まで観に行った。その与兵衛を、仁左衛門さん監修のもと、隼人さんが演じる。めちゃくちゃ期待して行きました。穏やかな雰囲気のある隼人さんが、どこから与兵衛の狂気を引き出してくるのか、とても楽しみにしていました。
けんけん(尾上右近)は、江戸っ子らしさがあって、踊りが格好良い役者さんなので、上方の芝居で、どんな男っぷりをみせてくれるのか楽しみでした。
壱太郎さんは、「また滝夜叉姫・・・」と思ったけど、ポスターヴィジュアルが素敵で期待させてくれました。
『三月花形歌舞伎』に来るのは、今回が初めてです。


【河庄】
わたしは生粋の関東育ちで、関西弁を聞き分ける耳を持っていないのですが、けんけんと隼人さんは大健闘だったのでは?ふたりとも江戸の役者なのに、上方の雰囲気のある兄弟になっていて感心しました。冒頭の吉太朗くんの丁稚の「おばはん」の持つあのやんわりとした雰囲気までは出せていないにしろ、兄弟ふたりのボケツッコみが自然に出てくる感じは「ああ、上方っぽいな」と思いました。
壱太郎さんはずっとうつむいているので、お芝居的にはあんまりしどころはないのかなと思ってしまった。あのうつむいた姿から見える心情はいろいろありますが。
後半、小春の胸ぐらを掴んで殴ろうとする治兵衛は、ちょっと江戸っ子っぽかったかな。「手をお膝に」はおかしみがあって、良かった。


女殺油地獄
凄く良かった。これは是が非でも歌舞伎座でやってほしい。お芝居が物凄く緻密で繊細。中村隼人は顔が良いだけじゃないんだぞって、知って欲しい。ただ仁左衛門さんを写しているだけじゃない。ここにはもう、既に個性がある。贔屓目だと笑ってくれてもいい。みんなに観て欲しい。
隼人さんの与兵衛は、前半のあほぼんのところをかなりかわいく作っているので、いつもの隼人さんなんです。頬杖ついてぷーってしてるハヤトナカムラかわいすぎる。でもね、殺しの隼人さんの目がイっちゃってて、めちゃくちゃ怖かった。別の役者さんなのかと思った。お吉が苦しみ悶える姿を見て、ニタニタニタっと笑うんですよ。こわ!!顔が良い分尚更怖い!!
わたしは「いっそ不義になって」のところの役者の演じ分けを観るのが好きなんですけど、仁左衛門さんは『自分に自信があって言ってる感じ』があって、愛之助さんは『自分に自信はないけどとりあえず言ってみる感』があって、隼人さんは『お吉に本気で欲情して言ってる』タイプの与兵衛だった。まじでこわい。「前からお前にぞっこんで」的なことを言うのも、適当なことを言っている感がなくて、まじで怖かった。お吉に襲いかかって、そのままやっちゃうんじゃないかっていう怖さがあった。ここの壱太郎さんが本気で脅えきって、身体が1/3くらいに小さくなって見えるのも良い。
壱太郎さんといえば、すごく華奢にみえる芝居をしていたのが印象的でした。苦しみ悶える姿も艶々していて、リアルなんだよね。その瀕死の姿から、香しいほどの色気が放たれていて、ほわあ、と思いながらも、娘たちの名を呼ぶか細い声に胸がギュッとなる。
与兵衛の「俺も俺をかわいがるおやじが愛おしい!!」の絶叫、良かったなあ。あそこの情の行き場がなくなっちゃったどうしようもない感と、その理不尽極まりない主張が、ものすごく悲惨で、良い。その気持ちがあるなら、与兵衛も孝行息子になれたかも知れないのに、彼にはそこまでの人間性がなかった。
話があっちゃこっちゃしてしまって申し訳ないんだけど、お父さんが出ていった与兵衛を見送りながら「成人してから亡くなった旦那に似てきた。旦那を追い出しているみたいで苦しい」というところとても好き。お母さんの「このちまきを、その辺の犬にでもやってくれ」というところもとても好き。
この演目のエロくてグロくて、しんどいところが大好きなんですね。でも、お芝居を物凄く繊細に作っていかないと、ただのエログロで悪趣味な演目になってしまう。それをここまで面白く作ってくる、役者たちの奮闘が見えるから、この作品が大好きなんです。仁左衛門さんは、与兵衛を19歳で初めて演じられたそうですが、この役の芯を19歳で捉えられただなんて、天才だなって思います。
そして、本当に隼人さんの与兵衛の初役が観られて良かった。これから、何度も何度も上演されて、役を磨いてゆく姿を、見守ることができたら、しあわせだなと思います。


【忍夜恋曲者・将門】
冒頭の演出で、松のかおりのお香を焚いていたそうなんですが、わたしは「焦げ臭い!?南座、燃えてる!?」とひとり静かに焦っておりました(笑)雅な演出を理解できない無粋な女で申し訳ない・・・(笑)
けんけんの光圀と、隼人さんの光圀で、演出が違っていて楽しかった!けんけんの踊りは格好良いし、観ていて気持ちが良い。演出もけんけんバージョンの方が好みでした(かえるも格好良いし)贔屓にはあんまり踊りを期待していないわたし・・・すみません。
ロウソクを使った演出が美しかったです。壱太郎さんの滝夜叉姫が一層美しく見えました。南座の雰囲気にも合っていた。