すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

雪組東京宝塚劇場『ファントム』

【期待】

宝塚歌劇の魅力は、出演者ひとりひとりが持っている輝きとその物語性だと思っています。卓越した歌唱力や、ダンス、緻密な芝居(脚本や演出)を求めている時には、他の劇場に行きます。ということで、別にわたしは歌ウマ至上主義でもなく、そのスターが持っている輝きを求めて劇場に通っているところもあり、贔屓組でもなく、しかもチケット難になりそうな公演だし、別にライビュでもいいかなと思っていました。しかし、初日のTLの熱狂っぷりに『これは絶対に観に行かなくては』と駆り立てられました。自力でチケットを用意できなかった無力なわたしですが(友会もプレイガイドも全滅した)お友達のおかげで、役替り両パターンとも観られました。本当に感謝しかない。しかも生歌が聞こえる距離のお席で、歴代のエリック(春野寿美礼さん、蘭寿とむさんと観劇が被った。奇跡だ)と同じ空間で、この素晴らしい音楽の世界を堪能できたことを、しあわせに思います。心から。
さて、望海風斗・真彩希帆コンビの雪組は、お披露目公演の『ひかりふる路/SUPER VOYAGER!』以来です。歌が上手すぎて、組の中でトップコンビが(いい意味でも悪い意味でも)浮いている…と思ったものですが、『ファントム』なら浮くぐらい上手くても問題ないし、むしろ説得力が半端ないだろうなと。そして、『ファントム』という作品は、音源や映像を繰り返し聴いたり観たりしていたにも関わらず、一度も生で観たことがない作品です。宝塚歌劇に歌唱力は求めていないとか言うくせに、やっぱり納得できるキャスティングで観たかった。なので、前回の花組はお誘い頂いたくせに観に行かなかった。『オペラ座の怪人』は、映画も舞台も(劇団四季のやつ)も見ています。

【全体像】

「だいきほの歌が上手すぎて、宝塚じゃないみたいだ…!!!!」
初見の幕間の感想がずっとコレで、宝塚じゃないみたいだと興奮しきっていました。『ひかりふる路』では上手すぎて若干浮いている気がしていただいきほの歌唱に、更なる調和を与えた雪組のコーラスに大感激しました。これは凄いぞ。聞いてはいたけれど、本当にすごい。トップコンビが組全体のレベルを牽引しているっていうことですよね、すごいわ。凄いとしか言えない。組が充実しているのが感じ取れます。
音程が取れている、ピアニシモでもピッチが安定している、歌詞が聞き取りやすい、声量がある、ビブラートが美しい、とかそういうものは基礎の基礎でできていて当たり前。それを飛び越えて、役としての歌、お芝居としての歌、これぞミュージカルの音楽だ!と、叩きつけられたような気持ち。そんな前提を持っただいもんときほちゃんがコンビを組むという尊さ。お互いの才能と技術が、お互いを輝かせているという奇跡。いやもうね、だいきほが奇跡の歌声だよ。だいきほコンビに恋しそう。というか、恋に落ちた。もともと身長差、体格差のないトップコンビが好きなのです。月組のきりまりコンビが凄く好きだったのですが、それと似たような感覚でだいきほコンビに恋をした。のぞみさんの相手役はきほちゃんでないと、きほちゃんの相手役はのぞみさんでないと、あの輝きは放てないよ。ふたりだから、強く輝くんだよ。そして、その二人の輝きを支えている、咲ちゃんと凪様、あーさ、ひとこちゃん。職人的な上級生男役と娘役、ひらめちゃんの色濃い存在感、彩みちるちゃん野々花ひまりちゃんの夢夢しさ。雪組さんは他組と比べたら人数が少ないけれど、それでスケールダウンすることは決してない。
新演出なんだそうですが、冒頭の映像が凄すぎて、初めて宝塚を見て画面酔いした。映像の演出は、面白いなと思うより「邪魔だな…」と思うことの方が多かった。キラキラのお衣装を来て、強いピンスポを跳ね返すようなスターたちのエネルギーが薄くなっちゃう気がした。お衣装やセットが綺麗に見えないのはちょっといただけないかな。特にだいもんの素晴らしいお歌に、あの映像の演出は邪魔でしかない。もっと歌だけに集中したかった。
英語の楽曲を日本語に訳すことの難しさが隠しきれず、「コレ多分、そういうことが歌いたいんじゃないんだろうなあ」と思いながら聞いていました。ゴシック的な、ちょっとホラー的な、『ノートルダムの鐘』とか『エレファント・マン』のような要素を持ったお話で、『オペラ座の怪人』よりは人間のドラマを感じさせるお話だと、改めて思いました。
「なんか色々凄すぎて、宝塚じゃないみたいだ!!」と衝撃を受けていましたが、そんなわたしを宝塚の世界に引き戻してくれたのが、フィナーレでした。フィナーレなのに中詰があるんだよ!凄くない!?爆泣きして頭痛がしているところに、せり上がってくる凪様がめっちゃキラキラしていて、なんかもう「ありがとう」って気持ちだった。先月やっていた演目と同じ値段でこれが観られるなんて、いいんですか。劇団の企業努力を感じるわ(最大限の皮肉)(生徒に罪はない)

【キャスト】

・望海風斗/ファントム・エリック
どこから語ればいいのかわからない。素晴らしかった。
何もかも出来てしまう優秀なスターさんだけど、わたし的には身長が足りなくて惚れられない。というのが、花組時代のだいもんへの勝手なイメージです。時を経て、そんな風に思うことはなくなりましたが。
この作品では、わざとなのか狙っているのか、エリックが小柄で華奢な体をしているのが、凄く効いていたように思います。恐らく、エリックは顔面の表皮だけではなく、他の部位にも傷?潰瘍?があるんだと思うのです。もしかしたら凄く身体が弱いのかもしれないし、疾患があってもおかしくはない。そのあたりを感じ取れるように、わざと華奢な男に見えるような補正をしているのかも。ジャケットを脱ぐと、さらに華奢な印象が強まって、エリックの幼稚な心理が現れてくる。彼の本当の心が見える場面ではジャケットを脱いでいることが多かったので、これも演出のうちなんだと思います。あの美貌で、あんなに歌って踊っているのに、ちゃんと(って言ったらなんか変だけど)身体的に問題を抱えている男に見えました。キャリエールに比べると小さくて、抱きしめられた時のエリックが少年のように見えて、愛おしい息子そのもので、涙が止まらなかった。
歌が上手いのはもう何度も言いつくしたいところなんですが、上手いだけの歌手なんて世の中にいっぱいいますよ。その技術に頼りきりのスターだって、いっぱいいますよ。そういう人の歌を聞かされると、失礼ながらうんざりしてシラケるんです。なぜか斜に構えている意地悪なわたしに、一切そんな気持ちにさせる隙もない、だいもんの歌唱は本当に本当に素晴らしかった。これはみんなファンになるよ。熱狂する。始発列車に乗って、なんとかその歌声を聴こうと、何時間も極寒の劇場前で当日券を求めて並ぶよ…。例えば、クリスティーヌの歌声を聴いて、居ても立っても居られなくて、勇気を出して会いに行ったエリックが、『きっと叶うはずさ!夢は!』と高らかに歌い上げた瞬間、彼が恋にズドンと落ちたのがびりびりと感じたられたのが衝撃的でした。だいもんエリックが、まあやクリスティーヌに抱いた恋心の詳細が、この瞬間に見えた。ソロでは♪If She Loves Him と♪My Mother Bore Me がとても良かった。誰かに呼びかけたり、訴えるような歌より、心の闇を吐露するような、エリックの乱暴な愛と弱さ脆さ、純粋さが見える歌がとても良かった。とても良かったとしか言えない自分が悔しい。ここで、わたしは心を掴まれたのだと思います。
褒めるべきところは歌だけじゃなくて、もちろんお芝居も。クリスティーヌに顔を見せて欲しいと言われてからの、一連の感情の移ろい。キャリエールに愛おしい息子だと言われ、魂ごと震えている様。最後の場面、オペラ座で暴れるエリックが、映像で見た時には自暴自棄になって暴れているのだろうか?となかなか理解できなかったんだけれど、彼はクリスティーヌを怖がらせてしまったことを後悔して、謝りたくて、命をかけて彼女に会いに行ったのね。死ぬために暴れるくらいなら、オペラ座の地下でひっそりと死んでしまえばいいのにとか思ってたんだけど、だいもんがわたしの浅はかな誤解を解いてくれた。ありがとうと言わせて欲しい。
お席が下手の前方席だった時には、だいもんがせり下がっていったり、せり上がってくるところがじっくり見られてしあわせでした。ガン見して待ち構えるのが好きなんですよ(笑)視線の高さも合うし。邪魔してゴメンと思いつつも、ガン見しますよ。欲しがりますからね。フィナーレでは、誰がなんと言おうとも、目が合ったと言い張るぞ。のぞみさん絶対こっち見たもん!!!!すき!!!!!!

・真彩希帆/クリスティーヌ・ダーエ
どこから語ればいいのかわからない。素晴らしかった(リプライズ)
圧倒的説得力だった。きぃちゃんのクリスティーヌは素朴で自然体なのにめちゃくちゃ歌がうまいので、その純粋さが際立っていた。農場で、愛に溢れた家庭で、まっすぐ純粋に育ってきたクリスティーヌの、心の清らかさに圧倒的な説得力がありました。
パリの歌を売るクリスティーヌも、十分歌が上手いのに、集中して聴いてみると、結構ブレスがめちゃくちゃなんですよね。これ逆にしんどいだろうなっていう。わざと下手に、それでも磨けば光る可能性を見せられる歌が歌えるって、ほんと凄いな。
ビストロの場面では、鳥肌が止まらなくて、多幸感に包まれて、何度か死にそうになった(死ぬな)本当に奇跡のキャスティングだよね…。
伯爵との関係も、彼に恋心があるようには見えなくて良い。いきなり主役を歌う夢が現実になるチャンスに浮かれている。伯爵は心強い味方ですくらいにしか捉えてなさそう(伯爵はクリスティーヌにガチ恋だったんだと思うけれど)な純粋っぷりが良かった。
そんなクリスティーヌだから、エリックの顔を見たがったのも、それを見て彼の背負っている闇を目の当たりにして逃げたのも、理解出来る。クリスティーヌは男女の愛以上の、もっと人間的な愛をエリックに捧げるつもりでいたのだろうなと。きっと、彼女が知っていて、教えられてきた愛が正義だと思っていたし、それを過信していたんだろうな。母のような愛でもなく、ただエリックを受け容れたかった。でもそこに、クリスティーヌとエリックの間に大きな溝が生じてるんだよね。エリックが欲しかったのは母のような愛で、憧れていたのは男女の愛だったように思う。彼には彼の存在を肯定してくれる人が必要だったはずなのに。エリックかわいそう。♪My Ture Loveが暴力的に上手くて力強いので、エリックの心も動くし、わたしの涙腺は決壊して大変なことになるわけです。ああ、なんなに美しくストレートに歌い上げられたら、応えるしかないじゃないか。エリックの顔を見た後のきぃちゃんのお芝居も素晴らしくて、最初は笑顔で彼の顔を見ていたのに、徐々にその表情が保てなくなってゆくところ、「あ、ああ…」と狼狽えてしまうところ、恐怖の悲鳴というよりは、混乱の悲鳴に近いような。どうしたら良いかわからなくなって、自分の信じていた愛の無力さに打ち拉がれて、彼の目の前から、逃げた。だから、「助けて」という言葉が出て来た。冷静になって「彼に謝らなくては」と後悔するのも納得できる。『おまえ逃げたくせに今更何言ってんだよ感』がなかった。「彼の話を聞いて!彼を撃たないで!」と懇願しても誰にも聞き入れてもらえず、泣きながら引き離されてしまうクリスティーヌにも泣けた…。
クリスティーヌは、もう舞台には立たないのかな。彼女の歌声の中にエリックは生きている、そう思わせてくれるラストだった。だから歌って欲しいな。舞台の上じゃなくても。農場でもいいから。
フィナーレのデュエットダンスも素敵だったなあ〜。もしこの物語がハッピーエンドだったら、っていうダンスで、それもまた宝塚らしくて好きでした。

・彩風咲奈/ジェラルド・キャリエール
どこから語ればいいのかわからない。素晴らしかった(リプライズ)(もういいよ)
咲ちゃんのキャリエールは、立っているだけで不幸のオーラを放っていて、ビストロの場面でも嬉しそうにしているのに決して浮かれたりはしない、影を感じさせる役作りが好き。過去の過ちと不幸を背負った男が、♪You Are My Own で「愛おしい息子だ!」と歌い上げた時にはじめて、幸せそうな、生き生きとした感情をあらわにするのが感動的で。涙腺が大決壊した。背の高い父親が小柄な息子を抱きしめる、っていう構図も良かった。
今までキャリエールがエリックを撃つ意味が分からなくて、楽曲はスゴいけどよくわからない話として自分の中で整理されていたのですが、今回初めて生で見て、彼の覚悟とかそういうのが見えた気がする。でも、息子がどんなに悲劇や闇を背負っていても、自分の手で殺してしまう事については理解は出来ない。理解できないんだけれど、キャリエールがあそこでエリックを殺さなければ、エリックは生け捕りにされて罪を背負って囚人に…なれればまだ良い。もしかしたら見世物小屋とかに売り飛ばされて『オペラ座の怪人』として人目にさらされて、地獄を生きたかも知れないんだよね。キャリエールの一瞬のためらいに、そんな葛藤が見えました。エリックの亡骸と共に消えたキャリエールには、死が見えた。エリックを地下深くに埋めた後、ひっそりと命を断つんだろうな。ほんと、キャリエールいいよね。宝塚の父と息子萌えするタチなので、泣くわ萌えるわでてんやわんやだった。
わたしは別にキャリエールはクズ男だとは思わないんだよね。カトリックの人が離婚が出来ずに苦しむのは、この時代のお話の鉄板だから「あなたもそうなのね」と思う程度だし、子供の顔が醜いから愛せないと言う父親にも違和感は抱かない(わたしが世の男性や父親にシビアな偏見を持っているからなのかもしれない)ただ、キャリエールのセリフに関しては、きっと訳が悪い。もどかしい。でも、咲ちゃんの役作りがわたしの理想のキャリエールそのものだったので、問題はなかった。むしろありがとうと言わせて欲しい。

・舞咲りん/カルロッタ
期待していた舞咲りん劇場が舞咲りん劇場で期待通りでした。歌も芝居も上手くないと出来ないカルロッタは、わたしの憧れのお役です。生まれ変わったら娘役になることを目標に根性を生きているんだけれど、絶対にカルロッタやりたい。
ヒメちゃんのカルロッタは期待通りだったんだけれど、想像した通りだったのが逆に残念だった(辛口)ヒメちゃんだったら、こんなカルロッタに違いないという期待には応えてくれましたが、それ以上のものは無かった…。
きゃびぃさんとのテンションの差、カレンちゃんとの息ぴったりのお芝居は面白くって、クスクスした。

・彩凪翔/フィリップ・ド・シャンドン伯爵 アラン・ショレ
いやすごいキラキラしてた!!最初に観たのがBパターンだったので、ひょうきんおじさんだった凪様が、フィナーレの冒頭にこれでもか!!というくらいにキラッキラして出て来てくれた時には、ものすごい安心感があった。泣きすぎて軽く頭痛がしてる時に「あ!そうだコレ宝塚だったわ!!笑」と、宝塚の世界に引き戻してくれたのも凪様でした。凪様のシャンドン伯爵は、とても宝塚の男役らしいキャラクターになっていて、タラシっぽいところや、やたらとキラキラしているのに胡散臭くないところ、クリスティーヌ!!クリスティーヌ!!と大騒ぎしていても、お前クドいよちょっと落ち着けよ!とは感じさせない説得力があった。そして娘役さんに囲まれて輝く姿。これぞ男役だわ。

・朝美絢/ フィリップ・ド・シャンドン伯爵 アラン・ショレ
逆に、あーさのシャンドン伯爵は、クリスティーヌ!!クリスティーヌ!!と大騒ぎしているところが妙にツボってしまった。歌はもちろん上手いんだけれど、2枚目男役としての説得力や力強さでは凪様には敵わなかったように思います(あくまで私の主観です)ショレの時の、カルロッタにゾッコンな感じはすごくすごく好きだった。「このおじさん、奥さんがいなかったら何にも決められないんだろうな」って感じが良かった。お芝居うまい。

・従者たち
従者たちがとにかく格好良すぎて、恋しそう…。あゆみ姐さんはめちゃくちゃ格好いいし、ひーこちゃんとの娘役感を残したスタイリングも最高だったし、諏訪さき君はとにかく顔が好きだ。
そして、『髪の毛結ってる男役の従者はどなたですか…』とツイートして、フォロワーさんに教えてもらった鳳華はるな君!98期のジジくん!思わず目で追ってしまうくらいにダンスが格好良くて、もはやひとりだけ別次元だったように思う。身のこなし、立ち姿も男役そのもので、惚れ惚れしました。身長が高い方ではない(168cm)のに、とても大きく見えるのも素敵。顔とお名前を覚えたので、これからも注目したいです。
今までより人数を絞って、選び抜かれたダンサーだけを並べたのも最高だった。スッキリしていて良い。

【千秋楽まで頑張ってね】

これだけトップコンビが歌いまくる、喉に負担も多かろうこの演目を、寒さは厳しいく乾燥は激しい、感染症が流行る季節に上演させる劇団って、本当に鬼ですよねー。連休中は2回公演の日も続くし。そこまでして動員上げたいのか。エリザベートでメインキャストを休演させたこと、反省してないんだろうか(これは生徒個人の問題じゃない。マネジメントの問題だと思う)で、宝塚の当日券はいつになったら抽選制になるの?
本当に、体に気をつけて、千秋楽まで頑張ってほしいです。ファンの皆さんも。
そして、たくさんの人にこの感動を届けて欲しい。とてもとても、素晴らしかったから。