すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

月組大劇場公演『BADDY』

【BADDY革命】

上田久美子先生の作品は、どれも本当に大好きです。『神々の土地』は特に好きで、初見の終幕後にぼろぼろと涙を流し、その涙の理由を説明できないくらいに感動しました。宝塚歌劇のお芝居への考え方を変えてくれたのが、上田先生の作品です。
そして、満を辞しての渾身のショー作品『BADDY』です。
各メディアが報じた『大羽根を背負ってティアドロップのサングラスを掛け、たばこをふかす珠城りょう』の写真を見、TLの熱狂を感じて「これは今すぐ観に行かないと一生後悔するやつ」と直感したのでした。そんな時に限って良席が降って来るもんです。

宝塚歌劇を長く観ている方は、そのシーンを『戦前・戦後』又は『ベルばら前・後』と区切るように、これからの宝塚ファンは『BADDY前・後』でその歴史を区切るのかもしれないね。これは革命だ。もしくはルネッサンス

【咀嚼しきれない全体像】

なんだこれ??言いたい事はよくわかった気になるけど、いまいちノリきれなかった。メッセージ性が強すぎて、若干説教くさく感じたのは素直な感想です。セリフが多く、疾走感に欠ける。音楽に多様性がない。
縦ノリの曲が多すぎる(特にBADDYのターン)のも気になる。飽きる。8ビートだけがロックではないです。それにワルっぽいジャンルの音楽は、他にもいっぱいあります!スカとかサイコビリーとか!
プロローグではセリフの掛け合いが長すぎて、「退屈だなあ」と思っちゃった。地球のつまんなさを表現しているのかな。それがあるからバッディ(珠城りょう)の開演アナウンス「とっくに開演中らしいな!」が効いて来るのかな(聞いてはいたけど笑いましたw痛快でしたww)
デュエットダンスの終盤でセリフが入るのも、蛇足では…と思ってしまった派。それまでの歌やダンスへの集中力が途切れちゃったのね。バッディにセリフを言わせなくても、踊りで表現出来たんじゃないの?と。
宝塚のショーやレビューの好きなところは、こちらの想像力を無限に広げてくれるところと、思惟の隙を与えないスピード感、めくるめく世界です。セリフが入ると、どうしても考え始めてしまう。つまり、分析を始めてしまう。考えることは大好きですが、音楽やダンスには圧倒されたい。劇場にいるときは、ショーの世界に浸って、我を忘れて夢中になりたい。
その辺が、いまいちわたしがノリきれなかった理由なんだと思います。うーん、わたしの姿勢も悪かったかなあ。

でも、すっっっっっっっっっごく楽しかったのは事実なので、もう一回観たい!わからないところがありすぎて!
カッコイイ!楽しい!!と夢中になれた場面もしっかりあったのです。渋い口調で語り出したくせに、そっちの方が比率的には多かったんだよー!

【主題歌がスゴイ】

歌詞が高笑いなのが最高。♪BADDY BADDY BADDY とコーラスが入って、バッディが歌うもんだと思って身構えたら、突然笑い出すからこっちも笑うよねw しかもスイートハート(美弥るりか)あんたもか!!っていうww
スモーキン群舞も格好良かった!たばこ吸いたくなった(元愛煙家)
バッディの銀橋ソロでの煽りには、すごく気持ちが煽られて、イエーイ係数が上がる場面でした。イエーイ!!ってなる。もっとデカい事してやる!!と歌うバッディに「いいぞ!!やれやれ!!」って言いたくなる気分。伝わる?

【風刺がスゴイ】

ピースフルプラネットの地図にはタカラヅカシティの所在地が示されているんだけど、日本列島が西日本からしか描かれていない。首都東京の存在を無視。ものすごい風刺を感じた。上田先生アナーキーすぎるでしょ。カッコイイ。

【キャラクターの存在感がスゴイ】

わたしはギリギリでスレスレな感じのお歌が大好きなので、スイートハート様の銀橋ソロが大好きです!なんてBADDYなお歌なの!?バッディには”様”付けで呼ばないくせに、スイートハートには”様”を付けたくなるのは何故なんだ。ワルがったりイキがったりしてる訳じゃないんだよ、あの人は。自分に正直で素直、ありのままでいる勇気がある自分を誇っているし、同じスタイルで大悪党なバッディの”大きくて激しい”のが好きなんだよ。

出向銀行員(宇宙人)の存在感もヤバい。まゆぽん(輝月ゆうま)の男役としての技量がしっかりしているから成立するキャラクターですよね!見た目のインパクトがものすごいのに、宇宙人でしかも銀行員でイケメン。宇宙語喋ってんのに、突然日本語で歌い出す(しかもめっちゃええ声)目が離せなかった。

帰り道、赤いパッケージのあいつを探してしまったのはわたしだけではないはず!
そう、ポッキー(月城かなと)です!キャラクターとしては彼のことがいちばん好きです。地球の住人であり、真っ白の価値観で生きてきた彼は、バッディたちと出会って、黒い世界を知り、追いかけられる快感を知り、白黒混じり合ったグレーな世界を生き抜きます。最後には自己を見出して、自爆という選択をします。(自爆という手段の是非については置いといて)ポッキーは白黒どちらの世界も知り、混沌とした価値観の中で混乱しながらも、自分のスタイルや生き方を掴み取ったのだと思います。思春期を生き抜いた青年を見たような気がした。

【怒りのロケットがスゴイ】

ちゃぴ(愛希れいか)渾身の怒りのロケットがめっちゃくちゃ格好いいです!男役の黒燕尾を凌駕するレベルで格好いい!もんのすごく怒っているのが伝わってきて、ビリビリします。あれだけでも観る価値ある。文句ひとつない。魂の底から本当に怒ってるグッディだけが途中で抜けるのも、最高にクールだった。
ロケットやラインダンスに情緒が与えられると、こんなに感動できるんだ!ものすごい感動だった。価値観がひっくりかえされた気分。そして、脚上げが始まると手拍子しちゃう客席、笑顔が抑えきれない下級生、呑気で平和的な照明。なんだこれ。とてつもない衝撃。

BADDY観劇後、自分の価値観や見てる世界、歩んできた道のりの事を考えてしまい、それは治りの悪い傷のような感覚。『お約束の展開に安心している自分』に往復ビンタ喰らった気持ち。

【ポッキーがすき】

往復ビンタを喰らった頬を押さえながら感じたのが、自身の感性の『老い』でした。新しいものを面白がる感性が鈍ってんな、と。
BADDYを観てから、自分が地球人か月の住人なのかずっと考えてる。そして、一番おそろしい答えを見つけてしまった。わたしは地球人でもなく月の住人でもなく、ただの退屈な大人なのだという答えを。
悪いことがしたい!とも、良い子でいたい!とも思わずに過ごしてる。なんということか。一度きりの人生それで良いのか。思えば思春期から成人するくらいの間は、ふたつの欲求のせめぎ合いの中で、自分を見出していった気がする。

ポッキー。彼に自分を重ねてしまうところがあるから、惹かれるのかもしれません。

東京でも観られたらいいなあ。今度はあまり身構えずに、頭からっぽにして観たいです!