すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

歌舞伎座『新・三国志』

【期待】

Twitterでどなたかが、『歌舞伎の新・三国志は、三国志ではないが、ほとんど宝塚のベルサイユのばらである』と言っているのを見て、気になりました。そして、この演目は猿翁さんが宝塚のベルサイユのばらにインスパイアされて作った、と聞きました。三国志の知識は、小学生の時に漫画を読んだくらいで止まっているので「こんなの三国志じゃないや」となる心配もなく、むしろ『実質ベルばらな三国志』にめちゃくちゃ興味を持ったわけです。

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ポスタービジュアルを見ても、骨太の歴史ものか、みすず学苑の車内広告にしか見えず、まさかグランドロマンスものだったとは、ミリも想像していませんでした。筋書きも前情報も全く入れずに見たので、ストーリーの展開を丁寧になぞりながら見ることができて、とても面白くときめきました。

【全体像】

『新・三国志』は、劉備が実は男装の女性でしたという設定なので、本当にベルばらだった。関羽と想いを重ねる場面が、とても美しくてキュンとしました。この今宵一夜の場面で(ベルばら変換)先に関羽の膝に手を置く玉蘭にめちゃくちゃ尊みを覚えて、オペラグラスぶん投げるかと思いましたよ。その手を優しく受け入れて握る関羽の包容力よ!女から先に手を伸ばすのが良いのよ。この尊さだけで3時間喋れる。今思い出してもときめく。1幕の幕切れとして、とても良かったです。
戦ばっかりしているのかと思いきや、登場人物の心の機微が丁寧に描かれていて、もっとマッチョな話だと思っていたのですが、ロマンス色が濃かったです。戦の前に「好きな女子の名前を言おうぜ」と言い始めたのには盛大にニヤニヤした。修学旅行の男子部屋かよ(笑)でも、ここで関羽が堂々と玉蘭への愛を語るのがめちゃくちゃ良いんですよね。マスクの下のニヤニヤが止まらなかった。
最後のバックハグもとても宝塚的でございました。元々、宝塚のベルばらの所作が日本物色が強いので、歌舞伎役者さんがやっても、ちゃんとハマるんですよね。

衣装もとても綺麗でした。中国ものはお化粧も衣装も鮮やかなイメージがありますが、シンプルなセットに映える綺麗なお衣装でした。あのターコイズブルーは、なかなか歌舞伎の舞台では見られない。

以下、印象に残った役者と場面について。

猿之助さんは包容力がでかい。最後に劉備に語り掛けるところは、神様みたいだったもん。宙乗りも綺麗だった。あんなに花吹雪が舞うとは思わなかった。美しい光景を見て拍手している瞬間ほど、しあわせな時間はないよね。

張飛の中車さんは、安心安定のいつもの中車さんって感じ。中車さんは客席と舞台をぐっと近づける技を持っているよね。出てきただけで、舞台に引き込まれてゆく。いつもテレビで見ているお顔や声が、舞台から聞こえてくるからなのかな。虚構と日常の距離が縮まるような感じ。

劉備の笑也さんと、香渓の右近さんのカップルがほんと見目麗しくてね。このふたりの婚礼を観ながら『このホンを書いた人は絶対にオスカルの夢女』と確信した。
笑也さんは、男装の女性のラインが絶妙で、しかも、女の人がわざと声を低くして喋っている感じ(男役の発声に近い)をしていて、女形ってすげえや!と思った。アンドレの前でぶりぶりしだすタイプのオスカルがあんまり好きじゃないんだけど、笑也さんの劉備には芯の通った強さが見えた。自信をなくすところも、ぐにゃぐにゃしていなくて良い。初演から劉備だけ配役が変わらないのも納得。笑也さんの劉備あっての『新・三国志』なんだ。

福之助くん!福之助くんめちゃくちゃ格好良かった!大きな衣装に負けない存在感、コスチュームの扱いが本当に格好良かった。マント裁きが素晴らしかったです。『研18くらいかと思ったら、あなたまだ研5なの!?』みたいなお芝居する(ヅカヲタにしか通じないたとえ)オグリの時から気になっている福之助くん。

團子くんの関平は、最後にひとり残っての場面が凄まじく良かったです。口語で仕立てられた台詞を古典口調で、情感たっぷり聞かせてくれました。見応えあったなぁ。ここを普通に語ってしまっては、歌舞伎にならないもんなあ。そして、高校卒業おめでとうございます。これからもご活躍されることを期待しています。

笑三郎さんも素敵だったんだけど、紫色のお衣装と黒いロングヘア姿を見ると、脳裏に大蛇丸がチラついてしまって、ずっとニヤニヤしてた。

スーパー歌舞伎Ⅱ】

『ワンピース』と『オグリ』は映像で見たことがあって、今回の『新・三国志』が一応の初めてのスーパー歌舞伎体験になります。フルサイズで見たいなあ。そろそろ、本水も恋しいよね。

シアタークリエ『ピアフ』

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【期待】

同郷の有名人のお芝居を、いつか観に行きたかった。でも、俳優もわたしも生きている。だから、いつかではなく、今、観に行かないと永遠に「いつか」は、やって来ないかも知れない。
大竹しのぶのお芝居を、いつか観に行きたかったのです。子供時代を同じ場所で過ごした大女優の、生のお芝居を見てみたかった。テレビで見せる顔ではなく、生身の肉体から発せられる声、圧、汗、全てを見てみたかった。
そこで降ってきたのが、『ピアフ』のチケットでした。
20歳くらいの時、なぜかシャンソンが気に入って、いろいろ聴いていたので、エディット・ピアフのことは知っていました。映画も見ていたので、彼女の生涯も知っています。結構印象深くて、まだまだ若い感性を持ってしてもべしょべしょに泣きました。
キャストは、主演の大竹しのぶ彩輝なお、のお二人しか知りませんでした。そういう前知識なく観る舞台って楽しいよね。

【全体像】

前半がかなり駆け足で「ピアフの生涯を知らない人は、ついて行けるのかな」と思ったりもしました。1幕の幕は、マルセルの死で降りるんだろうなと思っていたので予想通りだった。全体を通して思ったのは、「ちょっとこの脚本、言葉足らず過ぎない?」ってこと。説明台詞だらけになるのもうんざりだけど、この力量の俳優たちが揃ってるんだから、どうにかなると思うよ。語りすぎても野暮になるだけだし、難しいよね。ちょっとおしゃれに走りすぎちゃった脚本なのかなと思った。俳優の演技におんぶに抱っこの脚本だったかなと思いました。
言葉足らずの脚本を、素晴らしく補完していたのが、舞台装置だったと思います。おしゃれなんだけど、無駄なものが一切ない。展開もスムーズ。
演出も好みだったな。ピアノとアコーディオンを舞台の上に上げて、芝居と同一線上に存在させているのがよかった。大竹しのぶの芝居を際立たせるように、無駄なものは一切削ぎ落とした演出だったと思う。
演出といえば、わたしはコロナ禍以降初めて、客席通路登場の演出を見たよ!!この演出を生まれて初めて見たみたいに、新鮮な感動を抱いてしまった。
マルセルとのラブシーンの、いやらしさが感じられないシーツに、俗っぽい考えが湧いて出てこないのに驚いた。冒頭の兵隊さんとの違いがすごい。舞台上の激しめのキスが好きじゃないんですけど、こんなにも本物っぽくなるもんなんだと感心した。役者の芝居がうまくて、演出が的確だと、こんなにも本物っぽいんだ!全然嫌じゃなかった。
ピアフの歌もたくさん聞けるし、ピアフ以外にも、歌手役の人はたっぷり歌ってくれるので、ミュージカルではないけれど、お耳が大変満足した。あれ、でもマレーネ・ディートリッヒのさえこさんは歌わなかったな。勿体ない。
映画ではべしょべしょに泣いたのですが、今回はそんなことありませんでした。ピアフの人生に共感するには、わたしはまだまだ赤ちゃんなので、役者の芝居に圧倒される以外の見方ができませんでした。あるいは、ずっとわからないままなのかも知れないし、泣ける作品だから良いというわけでもない。

【キャスト】

やっぱり大竹しのぶは凄かった。演じ終えて、役が解ける一瞬に打ちのめされた。そこに居たのが大竹しのぶだったということを忘れていたからだ。全く、俳優の生身の肉体に別の人格を見出すということは、こういうことなのか。そこに居たのが、元歌手の年老いた、ひとつの人生を生き切った女性以外の何者でもなかった。すげえ。
その口から出てくる汚い言葉も、何もかもが、生きた言葉だったのにも驚いた。セリフじゃないみたい。予め決められた言葉とは思えなかった。「お芝居っていうのはこういうものよ」と教えられた気がした。
テレビで見る顔なのに、全然知らない人に見えるのも凄かった。結構キャラクターの濃い人だと思うんだけど、それを消して、追い越した存在になれるってすごいなあ。それが出来ないテレビタレントって、たくさんいるから。やっぱり彼女は一流と呼ばれるだけあるんだと思う。

梅沢昌代のお芝居も印象的だった。年を重ねる役って素敵だよね。ピアフと並んで、いつまでも下ネタで盛り上がっている時の空気感が素敵だった。ピアフはあんなに楽しいお友達がいても、孤独で孤独で仕方がなかったんだなあ。最期を看取る時に、彼女がいてくれてよかったな、と思うような、優しい背中をしていたのが印象的でした。

「なんか、男役みたいな人出てきた!」と思ったら、さえこさんだった(笑)脚が長過ぎてオペラで二度見してしまった。マレーネめちゃくちゃ似合ってた。秘書との二役っていうのもニクい。ピアフは周りの女性に恵まれているのに、どうしてあんなに孤独なんだろ。

正直、男性キャストは若いだけあって、同じ舞台に立つ大女優たちに適っていない気がしました。そこがかわいいんだと思うけれど。
あとさ、公式サイトのキャストページに、役名を載せておくれ!?「いいな」と思っても、名前を調べられないよ。マルセル役の人のお芝居と、歌手役の人の伸びやかな歌声がいいなと思ったのに、プログラムを買わなかったので、お名前がわからないままだよ。残念。

【また見たい】

本当は、大竹しのぶの『奇跡の人』が見たかったんだけど、代替わりしちゃって、もうやっていないんだよね。『ピアフ』はこれから年を重ねても、再演し続けるのかな。他のお役の大竹しのぶも、見てみたいなと思いました。演劇って、面白い!改めて、そう思いました。

シアターコクーン『天日坊』

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【期待】

初演を映像で見たことがあります。宮藤官九郎のテンポ良い台詞と、格好いい音楽、張り詰めるような緊張感のあるラストシーンに、手に汗握ったのを覚えています。印象は『現代的古典』です。黙阿弥作の古典なんだけれど、作品の筋を走っているテーマが、割と現代的に感じられたんです。個性を強く求められる現代と、江戸時代の日本人とでは、己の在り方についての叫び方が違うんじゃないかと思うんですね。実際にあった事件を元に作られた作品というのもとても興味深くて、実はこういった叫びは、時代関係なくあるものなんじゃないか。そんな印象を抱きつつ、実際に劇場でこの作品を観て、経験して、何を感じるんだろうといった期待がありました。
わたしにとっては二度目のコクーン歌舞伎です。土曜日の渋谷は人が多かったけれど、心なしかいつもよりひっそりとしていた気がしました。こんな状況でも幕を上げてくれることに感謝です。

【全体像】

脚本がクドカンなので、所々現代語が飛ぶテンポの良いお芝居でした。初演より30分カットされており『ああ、ここをカットしたのね勿体ない!』と思うところこそあれど、役者の仁と表現力に任せた部分も強くて、そこは面白く感じました。偉そうに言うとギミックのインパクトには欠けるかも。
『天日坊』の面白さは、最終的にめちゃくちゃ不安定なものの中にドカッと着地するところにあると思う。どうしたら良いかわからない。孤独でどうしようもない、みたいな。人間そんなに整合性のあるもんじゃないよねっていう。カチッとした正解を求めがちな自分の感性にデコピン喰らった感じがしました。
いろんな解釈ができる余白がどっしりとしてあるのも良かった。それがあるだけで、芝居に痺れた感覚が長く持続するから。最後の場面で振り返る男は頼朝なのか義仲なのか(プログラムで串田さんは勘三郎さんに頼朝で、と言ったようですが、今回はわからんよね!)父親が歌舞伎役者であったがために、人生が定められてしまう運命に生まれた歌舞伎役者にあの場面を用意するのも、めちゃくちゃ良い。ある意味とってもエグい。このメタのエグさがたまらない。
その孤独さと不安定さ、人間のあやふやさを格好良く表現しているバンドの演奏が素晴らしかった。特に、このお芝居でのトランペットは、とても孤独だ。このトランペットが聞こえてくるから、人は道を踏み外すよねっていう説得力があった。サントラほしい。トランペットのうねりが、法策の不安定な心と叫びのように鳴っていた。初演のように、ラストシーンの大立ち回りで、舞台上にズラリとトランペット隊が並ぶことはなかったけれど(実はいちばん観たかった場面)舞台から一段降りた客席側にバンドのピットがあるのもなかなか良かった。ちょうど舞台と客席の境界線上から音が鳴っているのが良かった。


【キャスト】

中村勘九郎/法策 後に 天日坊
勘九郎さんの17歳のお芝居がとても自然体で良かった。突然降ってきた運命に、どんどん顔色が変わってゆく様も良かったです。お三婆さんを殺す場面は、見ていて悲しかったです。「南無阿弥陀仏」の叫びが悲鳴のようにも聞こえました。
そしてもちろん、大詰めの殺陣!ゾワゾワした!鳥肌が舞台の方から波のように襲って来るのを感じました。ふと我に返って震える姿にリアリティが垣間見える。天日坊から、ただの法策に戻る瞬間のお芝居が素晴らしかった。

中村七之助/人丸お六
七之助さんは今回も強くてお綺麗でした。脚が綺麗なんだな。特筆すべきは大詰めの殺陣ですよ。あんなに動き回る女形って、他にいる!?お引きずりの着物の裾を常に捌きながら、刀を振り回しまくるのに、一切男が出ないその技に、惚れ惚れしましたよ。髑髏尽くしのお衣装も素敵でした。大詰めのために、わざわざ引っ込んで、着替えてくるのもよし。

中村獅童/地雷太郎
獅堂さんは、亀蔵さんとひたすらデカい声でバカな会話を続ける場面を超楽しみにしてましたが、めちゃくちゃ笑った。ただ声がデカいだけで笑えるという幼稚園児現象。殺陣も迫力があった。派手派手な衣装の着こなしもさすがで、ひとつひとつのキメが格好良かった。

市村萬次郎/猫間光義
萬次郎さん好きなので、お姿が拝見できただけでも嬉しかった。声がいいんだよねえ。高貴さが溢れている。

片岡亀蔵/観音院、赤星大八
亀蔵さんの観音院は、いやらしさの中に可愛らしさがあって、これこそ役者の仁だよなあと思いました。お布団敷いてあげようかなって思ったもん(笑)もっと、こちら側が嫌悪感を抱くレベルまでいやらしさを出してもいいのかなとは思いました。「あんな生臭坊主、殺されてもいいよね」と言う気持ちにはならなかったです(褒めている)
赤星は最高だった。太郎との大声合戦も爆笑したし、法策にお着物をぶん投げて来るのにも笑った。勘九郎さん飛んで行っちゃうかと思った。

中村虎之介/北条時貞
チャラ男時貞。みっくんの時貞にも「なんだこいつ笑」と思ったけど、虎之介くんにも「なんだこいつ笑」って思った。斬られた高窓との芝居が良かった。鶴松くんとの並びがいいよね。

中村鶴松/高窓太夫
お歯黒が可愛かった〜。時貞とのバカップル場面で、歯を出して笑っているのがチャーミングでとても可愛かったです。身重の高窓は必ずしも斬られる必要がなかった人物だと思う。歌舞伎はすぐに人殺を殺すから、そんなもんかなと割り切っちゃう自分の感覚がいやだな。高窓を斬った後の太郎のバツの悪そうな様が印象的です。

小松和重/越前の平蔵
大人計画の小松さん。今回が歌舞伎初出演だと、2幕の幕開きのフリー芝居で仰っていました。どこかで見たことあるなあと思っていましたが、ドラマにたくさん出ている人でした。実は〇〇と言った役所でしたが、匂わせ場面で薄すぎず濃すぎずの芝居をしていたのが印象的でした。

笹野高史/お三婆、鳴澤隼人
笹野さんのお三婆さん、すごく期待してたんですよ!この作品って、お三が殺されるまで、ほぼコントじゃないですか。そのコントの(コントじゃない)中心になって回しているのがお三婆さんなので、笹野さんにはとても期待していました。その期待を裏切らない笹野さん、最高でした。客席が使えない分、めちゃくちゃ動きがスローなおばあちゃんボケをどうやってくれるのかを楽しみにしていましたが、すでに「いる」だけで笑わせて来るのは流石。笹野さんはとても小さくて小柄なおばあちゃんだったので、法策に殺される場面の理不尽さと悲惨さが半端なかったです。
隼人は、時貞高窓のバカップルノリに一生懸命ついて行こうとする姿に泣けました(そういう芝居じゃない)

中村扇雀/久助
扇雀さんには、隠しきれないロイヤルみがあるので、匂わせ場面がめちゃくちゃ匂っていて、面白かったです。久助の匂わせ場面が結構カットされていたように思うのですが、扇雀さんの仁というか、芝居の説得力でねじ伏せた感があったかなあと思います。法策にとって、兄弟のように慕っていた久助の存在は、とても大きかったと思うので、芝居の要なんじゃないかなと思うんです。そこら辺を割愛しても成立させられるのは、扇雀さんの役者の技量なんだろうなと思いました。

【13人】

珍しく今期の大河ドラマ『鎌倉殿の13人』にハマって、毎週見ています。アニメの『平家物語』も見ていて、この時代のあれこれって、歌舞伎のお芝居のモチーフになっていることが多いので、面白く見ています。『天日坊』もその辺りの人物関係が被って来るので、より面白かったです。
『天日坊』はきっと、観るたびに感じるものが変化しそうだし、役者が年を重ねてこそ出せる味がありそうだなと思ったので、何年かおきにやってほしいなと思いました。コクーンシアターがなくなっても、コクーン歌舞伎やってほしいです。