【期待】
同郷の有名人のお芝居を、いつか観に行きたかった。でも、俳優もわたしも生きている。だから、いつかではなく、今、観に行かないと永遠に「いつか」は、やって来ないかも知れない。
大竹しのぶのお芝居を、いつか観に行きたかったのです。子供時代を同じ場所で過ごした大女優の、生のお芝居を見てみたかった。テレビで見せる顔ではなく、生身の肉体から発せられる声、圧、汗、全てを見てみたかった。
そこで降ってきたのが、『ピアフ』のチケットでした。
20歳くらいの時、なぜかシャンソンが気に入って、いろいろ聴いていたので、エディット・ピアフのことは知っていました。映画も見ていたので、彼女の生涯も知っています。結構印象深くて、まだまだ若い感性を持ってしてもべしょべしょに泣きました。
キャストは、主演の大竹しのぶ、彩輝なお、のお二人しか知りませんでした。そういう前知識なく観る舞台って楽しいよね。
【全体像】
前半がかなり駆け足で「ピアフの生涯を知らない人は、ついて行けるのかな」と思ったりもしました。1幕の幕は、マルセルの死で降りるんだろうなと思っていたので予想通りだった。全体を通して思ったのは、「ちょっとこの脚本、言葉足らず過ぎない?」ってこと。説明台詞だらけになるのもうんざりだけど、この力量の俳優たちが揃ってるんだから、どうにかなると思うよ。語りすぎても野暮になるだけだし、難しいよね。ちょっとおしゃれに走りすぎちゃった脚本なのかなと思った。俳優の演技におんぶに抱っこの脚本だったかなと思いました。
言葉足らずの脚本を、素晴らしく補完していたのが、舞台装置だったと思います。おしゃれなんだけど、無駄なものが一切ない。展開もスムーズ。
演出も好みだったな。ピアノとアコーディオンを舞台の上に上げて、芝居と同一線上に存在させているのがよかった。大竹しのぶの芝居を際立たせるように、無駄なものは一切削ぎ落とした演出だったと思う。
演出といえば、わたしはコロナ禍以降初めて、客席通路登場の演出を見たよ!!この演出を生まれて初めて見たみたいに、新鮮な感動を抱いてしまった。
マルセルとのラブシーンの、いやらしさが感じられないシーツに、俗っぽい考えが湧いて出てこないのに驚いた。冒頭の兵隊さんとの違いがすごい。舞台上の激しめのキスが好きじゃないんですけど、こんなにも本物っぽくなるもんなんだと感心した。役者の芝居がうまくて、演出が的確だと、こんなにも本物っぽいんだ!全然嫌じゃなかった。
ピアフの歌もたくさん聞けるし、ピアフ以外にも、歌手役の人はたっぷり歌ってくれるので、ミュージカルではないけれど、お耳が大変満足した。あれ、でもマレーネ・ディートリッヒのさえこさんは歌わなかったな。勿体ない。
映画ではべしょべしょに泣いたのですが、今回はそんなことありませんでした。ピアフの人生に共感するには、わたしはまだまだ赤ちゃんなので、役者の芝居に圧倒される以外の見方ができませんでした。あるいは、ずっとわからないままなのかも知れないし、泣ける作品だから良いというわけでもない。
【キャスト】
やっぱり大竹しのぶは凄かった。演じ終えて、役が解ける一瞬に打ちのめされた。そこに居たのが大竹しのぶだったということを忘れていたからだ。全く、俳優の生身の肉体に別の人格を見出すということは、こういうことなのか。そこに居たのが、元歌手の年老いた、ひとつの人生を生き切った女性以外の何者でもなかった。すげえ。
その口から出てくる汚い言葉も、何もかもが、生きた言葉だったのにも驚いた。セリフじゃないみたい。予め決められた言葉とは思えなかった。「お芝居っていうのはこういうものよ」と教えられた気がした。
テレビで見る顔なのに、全然知らない人に見えるのも凄かった。結構キャラクターの濃い人だと思うんだけど、それを消して、追い越した存在になれるってすごいなあ。それが出来ないテレビタレントって、たくさんいるから。やっぱり彼女は一流と呼ばれるだけあるんだと思う。
梅沢昌代のお芝居も印象的だった。年を重ねる役って素敵だよね。ピアフと並んで、いつまでも下ネタで盛り上がっている時の空気感が素敵だった。ピアフはあんなに楽しいお友達がいても、孤独で孤独で仕方がなかったんだなあ。最期を看取る時に、彼女がいてくれてよかったな、と思うような、優しい背中をしていたのが印象的でした。
「なんか、男役みたいな人出てきた!」と思ったら、さえこさんだった(笑)脚が長過ぎてオペラで二度見してしまった。マレーネめちゃくちゃ似合ってた。秘書との二役っていうのもニクい。ピアフは周りの女性に恵まれているのに、どうしてあんなに孤独なんだろ。
正直、男性キャストは若いだけあって、同じ舞台に立つ大女優たちに適っていない気がしました。そこがかわいいんだと思うけれど。
あとさ、公式サイトのキャストページに、役名を載せておくれ!?「いいな」と思っても、名前を調べられないよ。マルセル役の人のお芝居と、歌手役の人の伸びやかな歌声がいいなと思ったのに、プログラムを買わなかったので、お名前がわからないままだよ。残念。