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歌舞伎座『風の谷のナウシカ 上の巻 ー白き魔女の戦記ー』

【期待】

演目の発表を見た時、スマホを持つ手が震えました。
2019年の初演を見て感動し「歌舞伎の世界を理解したい」と思ってから、間も無くしてコロナ禍に突入。歌舞伎座の公演がストップし、再開してから細々と歌舞伎を見に行く様になりました。ブログには書ききれていないけれど、毎月いずれかの部を見に行っています。東銀座も、もうすっかり庭です(笑)
はち切れんばかりに膨らんだこの期待を、どう記したら良いのでしょう!初演のセットや蟲たちのパペット、衣装がめちゃくちゃ凝っていたので、再演しないのは勿体無いとは言ってきましたが、こんなに早く再演が叶うとは思っていませんでした。コロナが落ち着いた頃、もう少し先だと思っていたのです。
キャストのスライドにも、胸が高鳴りました。初演でナウシカを的確に演じていた菊之助さんがクシャナに。そしてナウシカは、初演でケチャを演じていた米吉さんに。アスベルは尾上右近さんが続投、チャルカの錦之助さんも続投。ユパ様に大河でも大活躍で久しぶりの歌舞伎座出演となる彌十郎さん。そして今回のケチャは莟玉さん。歌舞伎を見るようになって、役者の事が少しわかるようになってきたわたしには、配役発表だけでお祭り騒ぎだった訳です。
特に、米吉さんは初演のナウシカを見た時に「ひとりだけ本物の女の子がいた。歌舞伎にも本物みたいな人っているんだなあ(例えば宝塚なら、真風涼帆を見て「本物の男がいる!」と驚くような)」と思った日から、お目当てに観に行くような、若手の女形さんです。何でもかんでも宝塚に例えますが、『新公学年の娘役が本公演でタイトルロールを演じる』くらいの大抜擢かと思います。菊之助さんが米吉さんをナウシカに選んだ事が、とてつもなく胸熱でして、『自分がクシャナを演じるならば、ナウシカは彼に』と思ったであろう事がもう尊くて合掌ですよ。
菊之助さんのクシャナは、とても期待が高かった。初演の七之助さんのクシャナは、あれで既に完成形みたいなところがあったから(それほどにセンセーショナルで素晴らしかった)菊之助さんがクシャナをどう見せてくれるのか、とても楽しみだった。しかも、主人公をクシャナにする趣向も楽しみでした。初演ではクシャナのエピソードがセリフだけになっていたりして、物足りなさを感じていました。わたしはナウシカという作品は、ナウシカクシャナダブルヒロインで、お互いが光であり影であり、その上女同士であるところに最高に萌えているので、そういった間柄が歌舞伎で取り扱われることが、とても意味のあることだと思う訳です。なぜだか、わたしの周りの男性は、クシャナが好きな人が多く、ああいう女性に憧れる男性の気持ちが、ちょっと乙女で可愛らしいなと思うのでした。
丑之助くんと、知世ちゃんのご出演の知らせも嬉しかったです。初演を新橋演舞場へ見に行った時、お茶していた喫茶店で偶然、丑之助くんと知世ちゃんとお母様に出会したことがあって、「この子もいつかナウシカを演じたりするんだろうなあ」と思ったものでした。まだまだ小さな子供だったのに。子供にとっての約3年は、とても大きなものですね。
ビジュアルが発表になったり、公演の情報が流れてくるたびに、脳内ではお祭り囃子が流れておりました。それだけ、楽しみにしていました。
観に行ったのは、初日開けてすぐの週末、中日、そしてこれから千秋楽を観る予定です。

【所感】

いや、米吉ナウシカかわいすぎたよね。かわいいだろうなとは思っていたけれど、予想の300倍可愛かったな。幕間に花籠でお弁当食べながら泥を吐きそうな気分でした(どんな感情)菊之助クシャナ殿下も麗しくて格好良くて、泥を吐きそうでした。まだ幕間だっていうのに、泥を吐きまくって魂が浄化されたような気がいたしました。それだけ、わたしにとっては最高で、マーベラスで、ハイカロリーな作品だった、という事なのです。初演の衝撃を凌駕する出来だったのです。これだけ大満足の作品を、どこから語ってゆきましょうか。
どうしても初演と比較した感想になってしまいますが、初演にあった本水や客席降りはカット。それでもスケールダウンして見えないのが素晴らしかった。ナウシカの地下室の場面がカットされていたのは寂しかったけれど(あのシーン好きなんです。ナウシカの賢さが見えるから)場面転換や物語の進み方はむしろスピーディーになっていたように感じました。ちょっとテンポが良すぎて、原作を知らない人にはしんどいのではないかとも感じました(2回目に見たときはイヤホンガイドを使いましたが、歌舞伎のフォローというより、ナウシカの世界のフォローをしっかりしていましたね。しかし、セリフに被せる解説が邪魔でもありました)後半は完全にクシャナが主人公となる訳ですが、初演でカットされていた兵士への手向に髪を切るシーンがあって、脳内で叫びました。ざんぎりの殿下も麗しい!格好いい!大詰の冒頭での母上との場面には泣かされました。漫画では数コマしかない場面を歌舞伎的に膨らませているのが素敵でした。歌舞伎では髪梳きは愛情表現の場面だそうで、もう心を通わす事ができない母上に梳いてもらった髪を、クシャナは手向にしたのだなと思うと、胸がギュッとなりました。ただの乙女の髪の毛ではないのですよね殿下…。
美しい舞台芸術タペストリー幕や書き割り、王蟲が走ってくる場面を描いた幕などは、新しく作り直したのでしょうか。新橋演舞場歌舞伎座では、サイズが違うので、書き直したのかな。もしかしたら王蟲も?やっぱり冒頭の腐海にタイトルが浮かび上がる様には、毎度感激してしまいます。ナウシカの世界が立体的になって目の前に在るというだけで、こんなにも感激しちゃう。これからも、この光景を見て、新鮮に感激したいです。
衣装は割とそのままだったような気がします。クシャナは新調のお衣装があったかな?ヘアメイクは役者に合わせたものになっていました。もうね、米吉ナウシカのエアリーボブしか勝たん。米吉ナウシカのエアリーボブが可愛いことは知られていると思うのですが、米吉ナウシカの眉毛の可愛さについても言及したいと思います。かわいい。やり過ぎでない困り眉、絶妙な平行眉が本当にかわいい。普段の歌舞伎のメイクとは違う感じ。某・紫吹淳さんに教わったのかな(ノーズシャドウからの眉毛の作り方が娘役っぽかった)七之助クシャナは男役っぽいビジュアルだったけれど、菊之助クシャナは歌舞伎の中華モノっぽいメイクなのが印象的でした。あと、シニヨンの作り方が違う。後毛がなくて、きっちり編み込んで結っている感じ。そんなところから、役の性格を読み取るのが好きです。

【キャスト】

クシャナ/尾上菊之助
七之助さんのクシャナ星組っぽかったけれど、菊之助さんのクシャナ月組っぽかった(なんでも宝塚に例える)中村屋の殿下は鞭をへし折るが、音羽屋の殿下は鞭をへし折らない。第一声から「つよ!」と思ったのですが、母上の前では娘の声になっていて、菊之助さんのクシャナの悲しみの深さに感心しました。何度も足を組み替える場面があるのですが、オペラで凝視しちゃったよ。もう、なんのご褒美なんでしょう。頬杖ついてる殿下が好きですね。
クシャナの剣は、刀ではなくてサーベルなので、殺陣もいつもと違って、斬る動作より突く動作の方が多くて格好良い。マントが綺麗に靡く。マントというか、陣羽織のアレンジ?みたいなやつ。ビジューがジャラジャラついてて姫っぽくて好きです。
ナウシカクシャナの体格差にひたすら萌えてたんだけど、わたしの大好きな「後ろを留めてくれ」が健在で、思わず叫び声を上げて立ち上がりそうになりました。クシャナからのナウシカへの矢印の大きさが大好きだし、話が進むにつれてナウシカの心の闇というか、光だけではない部分が見えてくるにつれて、クシャナの闇が光に照らされてゆくのがたまらないんですよ。こういう萌えがあるんですよわかりますか。だからこそ、菊之助クシャナには米吉ナウシカでなければならない道理がある。道理っていうか萌えなんですけど。

ナウシカ/中村米吉
予想の300倍可愛かった。最初に見たときは、かわいさしか読み取れなかったんだけれど、中日に見た時には、だいぶ印象が深化していて、役者の力を感じたよ。第一声からヒロインなので素晴らしいのだけど、ルリルリしているだけではなく、実は気性が荒くエキセントリックなところが見えたので更に素晴らしかった。下の巻に繋がる役作りだと思う。気持ちが昂った時に、ジブリのキャラクターって髪の毛がゾワゾワと逆立つ表現がよく見られるんだけれど、米吉ナウシカにもそれがあった。着物の裾をギュッと掴む両手の意地らしさもかわいいの。かわいすぎて、「もうこれ以上傷付かなくて良いよ!」と駆け寄って抱き締めたくなる(誰)庇護欲かき立てられるんよなあ。ミト爺に「姫様も大人になりましたな」と言われて「ええ?」と振り返る姫様が本当にかわいくて、オペラグラス握り潰したくなります。
最初に見た日は1階席の後方だったので、宙乗りは見えないかなと諦めてたんだけど、ちゃんと見えたよ!!ナウシカが飛行姿勢になると歓声が上がっていたよ。しかし、中の人の体幹はどうなっているんだ。あんなに華奢なのに。しかも暗転した中、吊られたままで後ろ向きに下がっていくの、絶対に怖い筈。見てるだけでヒュンとなる。チョンパで目もくらむだろうし、それでもきゅるんとしてる中の人凄すぎないか。役者ってすごい。

・アスベル/口上/尾上右近
けんけんアスベルの好きなところは、アスベルにしてはイケメン過ぎるのに、ちゃんとアスベルなところ。最後の場面で、両手を腰に当ててナウシカを見送ってるのがめっちゃアスベルですき。本水がなくなって見せ場が減ってしまったのが残念だったけど、歌舞伎のアスベルは王子様感が強くて好きです。

・ケチャ/中村莟玉
第一声から「つよ!」と思ったけど、原作のケチャに近い印象を受けました。ケチャって、結構顔立ちもキツいし、それくらい強くて良いんだよね。「私もその服、狙ってたんだ」が健在だったのと、その時のまるるがいたずらっぽくて可愛かったので100点満点でした。

・幼き王蟲の精/尾上丑之助
あまりにも純粋で、放つ光が眩しくて、初演と全く違う印象を受けて、新鮮に泣きました。序幕いちばんの見せ場と言っても過言ではないのでしょうか。「子供でも、こんなに情感豊かな身体表現ができるものなんだ」と驚きました。初演では無かった引き抜きも効果的でした。今は、体調不良でお休み中の丑之助くん。すごく良い場面だから、悔しいと思うけれど、しっかり休んでくださいね。復活待っています。そして、下の巻ではチククをやってほしい!年齢的にも丁度いいと思うので、ぜひナウシカの世界で活躍してほしいと思います。

・幼きナウシカ/寺嶋知世
母親とのやりとりが良かった。クシャナナウシカも、母に真っ直ぐに愛されなかったところが共通点なんだよね。幼いながらも、集中力と求心力が素晴らしいと思った。これが初舞台なんて本当ですか!小さな子供に、この世界観とか、場面の意味とか、役の心情を指導するときに、周りの大人たちは、どんな言葉をかけているんだろうと思いました。それだけ、お役が深かったのです。

・クロトワ/中村吉之丞
初演の時、クロトワの「俺は尻尾を出しますよ」で笑いが起きる意味がわからなかったんだけど、元ネタが『弁天娘女男白波』なのがわかって、再演では笑うことが出来ました。成長してる!その後に続く七五調の台詞がいいですね。クロトワも、初演の亀蔵さんの印象が強いんだけど、吉之丞さんのクロトワも良かった。下の巻も続投されるのかな。クロトワって、ある意味この物語のヒロインだと思っているので(笑)これからの活躍が楽しみなのです。

・ミト/市村橘太郎
初演でメロメロになった橘太郎さんのミト爺〜!!かわいいほっぺが健在で嬉しかった。姫様にメロメロなのに、武人らしいところもあって、大好きですミト爺。今回も舞台写真出ないかな。

・チャルカ/中村錦之助
チャルカの活躍は、下の巻までお預けかと思うのですが、初演に出ていた役者がいると、安定感がありますね。説明台詞が多くて大変そうだった。ドルクの踊りが不気味すぎて毎回トラウマ案件なんですけど、今回はチャルカも参加していてさらに怖かったです。夢に出そうなんだよ…。

・ユパ/坂東彌十郎
歌舞伎座にお帰りなさいの彌十郎さん、ツヤツヤしていた!!ユパ様の喋ったときにお髭が動く感じが本当にユパ様で格好良かったです!!ユパ様も出番が減ってしまって少し残念でしたが、存在感と重厚な台詞回しは流石でした。ユパ様の最期が格好良くて好きなので、彌十郎さんのお芝居も楽しみです。

【下の巻も楽しみ】

まだまだ語り足りない(まだあるの)連日Twitterで大騒ぎしているので、そろそろわたしのフォロワーさんは、ナウシカ歌舞伎のことが気になって仕方がないのでは!?お席もまだありますし、千穐楽ライブ配信されるそうなので、興味のある方はぜひ見ていただきたいです。
近いうちに下の巻も見られると思うと、ワクワクが止まりません。きっとこれから、古典になってゆくのではないかと思われる『風の谷のナウシカ』。この世界に出会い、観客として存在できる幸せを噛み締めて、次回作を待ちたいと思います。

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