すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

IHIステージアラウンド東京『新作歌舞伎ファイナルファンタジーⅩ』

【期待】
寝ぼけてんのかと思った。制作のニュースが飛び込んできたとき、本気で夢かと思った。
以下、ほとんど自分語りの前置きがかなり長いので、公演の感想だけ読みたい方は飛ばして下さい(笑)
わたしは『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』で歌舞伎沼にはまり、それから毎月、歌舞伎座に通っている程度の歌舞伎ファンです。『ナウシカ』を観たとき、あまりにも素晴らしくて衝撃的で、「古典歌舞伎の世界を知りたい!この世界観をもっと深く理解したい!」と思い、古典歌舞伎を観るようになりました。役者の顔と名前を覚え、屋号を覚え、家族親戚関係を覚え、演目を覚え、古典のお約束を覚え、楽しくオタクをしています。一通りの役者を観て、演目を観て、そろそろ初心者卒業かな?といったレベルです。
ファイナルファンタジー(以下FF)は、4~10をプレイ済みです。Ⅹの発売当時は、中学二年生の夏休みだったことを記憶しています。映画館も劇場もない田舎に住む中学生にとって、唯一のエンターテイメントがゲームでした。漫画や小説のように、親世代の手垢がついていないカルチャーで、ほんとうに最先端でクールなエンタメでした。発売日から数日後に、海外留学を控えていたわたしは、寝食も忘れてゲームを進め「ここにいる日本人の中で一番FFⅩを進めている日本人である」とドヤ顔をしていました(笑)多分最終的には5周くらいはしたんじゃないかな。かなりやりこんだ記憶があります。
当時、わたしはエレクトーンを習っていて、ゲーム音楽を編曲して演奏するのに凝っていたので、FFⅩのサントラも持っていましたし、今でもサブスクで音楽を聴けば、どの場面か思い出すことが出来ます。思い出し泣きも出来るくらい身体に染み込んでいる音楽達です。そういえば、小学生のころのわたしの夢は、「ゲーム音楽を作る人」でした。本気でスクウェアに入社したいと思っていましたし、本気で植松伸夫師匠に弟子入りするつもりでいました。つまり何が言いたいかというと、音楽への期待も高いってことです。『ナウシカ』の時が本当に素晴らしかったので、あの数々の名曲がどんなアレンジで聴かせてくれるのか、とても楽しみ。
少女時代の自分に、5秒だけタイムスリップして伝えられることがあるとしたら、「あんたが今やってるFFⅩ、あんたは21年後に歌舞伎になったものを観るぞ!何を言っているかはわからないだろうが!21年待て!」ですかね。
菊之助さんが真面目なオタクであることは、『ナウシカ』を観てなんとなく勘付いていましたが、あんな綺麗な顔してゲームやるんですね!しかも結構なゲーマーじゃないですか!あんな綺麗な顔して!『ナウシカ』の大成功は経験済み(新作歌舞伎を見て古典に興味を持った人がここにいるので、大成功だと思うのです)なので、何も心配はありませんでした。興奮して、制作発表の日の午前中に何をしていたか思い出せないくらい舞い上がりました。世間のリアクションは、正直微妙だったと思います。でも、それでこそ、あっと言わせるにはちょうど良い土俵じゃないですか。それぐらいの力が、歌舞伎にはあると信じているので、意地悪な意見もそんなに気になりませんでした。観ればわかってもらえるだろうという確信があった。ただ、「だれが見るんだろう」という疑問はありました。わたしは、歌舞伎ファンでありFFⅩのファンであるけれど、双方に被っている人はかなりニッチな層ではないのか。通しで1日掛けて観るエンタメは、タイパ重視の現代にマッチしていないのではないか。そもそも、1日限りのエンタメに、数万円を払う価値観が、ゲーマーにあるのだろうか(3万円あったらゲーム何本か買えちゃう)FFⅩのファンって、大体わたしと同年代か、それよりすこし上の世代かだと思うのですが、そこの層がそんなにお金と時間に余裕があるとは思えないんですよね。
シナリオの面白さには絶対の自信があるので、歌舞伎ファンがこの世界を観て、涙を流すだろうという自信はありました!なので、FFⅩを全く知らない、歌舞伎ファンのお友だちと一緒に観に行くことにしました。スピラのこと、ザナルカンドのことを何も知らないまっさらな状態でFFⅩ歌舞伎を観に行けるお友だちのことが羨ましくて仕方が無い!
どうしよう、観る前から1700字も書いちゃった(笑)それぐらい期待は高く、特集番組を観ている段階で泣き、ここまでの文章だって、実際の観劇日の1週間前に書いている始末である。楽しみにし過ぎ。


【全体像】
最高だった。前編が終わった時点で「もうどうにでもしてくれ」って思ったし、浮かれてのぼり旗の前でポーズを撮って写真を撮った。思っていた以上にゲームのままだった。使っていたCG映像もゲームのデザインそのままで、音楽の使い方に違いはあれど、そのままだった。
初ステアラだったので、他の作品と比較は出来ないけれど、すごく気持ちの良いところで客席が動くので、没入感が半端なかった。ちょっと目眩のような感覚に陥りましたが、酔うほどではなかったです。役者が歩きながら客席がまわるので、懐かしの横スクロールゲーム感がありました。場面転換の時間がほとんどない驚き。
口上のオオアカ屋(萬太郎)は、導入としてとても興味深かった。「歌舞伎が初めての人」「FFⅩで遊んだことがない人」と挙手させ、観客の緊張を解す。どちらにも手が上がらないわたしは、少数派だったと思います。2回目に見たときは、「歌舞伎初めての人」が9割だった。萬太郎さんがオオアカ屋という商魂逞しく憎めないキャラクターとして、劇場を暖めてゆく。オオアカ屋が本編に絡んでこないのも、スッキリしていていいなと思いました。ゲームを知らない人は、萬太郎さんが何者に見えたんだろう(笑)
前編は歌舞伎要素控えめ。でも、後半への伏線はしっかりと張ってあり、役者の魅力と歌舞伎のテンポに慣らすための時間、といった感じでした。一歩間違えればただの2.5次元になってしまいそうなところを、きちんと歌舞伎のスタイルで魅せてゆくのが気持ちよかった。登場人物の名乗りで、客席が「キタキタ!!」となっているのを肌で感じました。
後編は、いきなり竹本も登場し、義太夫節も聴かせるし、そこに歌舞伎を知らない人への遠慮やご機嫌伺いが全くないのが潔くて良かった。『これは歌舞伎だから、これが当然なんです』に、何の違和感も感じない。
歌舞伎を何年か見るようになって、読解力というか、解像度が上がってきているので、「ここの台詞は『お祭り』からだな」とか「ここの振りは『連獅子』からだな」「この役は『土蜘蛛』だな」みたいな、古典のどの作品をモチーフにしたかがわかるようになっていて、面白かったです。この古典からの引用のセンスの良さは、普段からがっつり古典もやる菊之助さんならではのセンスの良さだろうなと思いました。
キャスティングの素晴らしさは、みんなが言っている通りで、ほんとうに全員ニンに合っていて素晴らしかった。菊之助さん、キャスティング考えてるとき、ちょ~~~~~~~~~~~~~~~楽しかっただろうな(笑)そりゃ、役者に直接電話してオファーしちゃうよ(普通は松竹を通して連絡するらしい)キャストの素晴らしさについては、後ほどじっくり語ります。
衣装は、写真で見ると彩度が高く「ちょっとトンチキに見えるかも知れない」と心配しましたが、映像を背景にすると、とても舞台に映えていて、役者の動きやお芝居を際立たせていて、素敵でした。特に、ユウナの袴の刺繍がキラキラ光ったり、ルールーの着物の裾の飾りがピカッと光ったりして素敵でした。基本的にみんな着た切り雀なんだけど、シーモア老師には何着か衣装があって、しかもぶっ返りがあったのが良かった。特筆すべきはユウナの婚礼の衣装で、白無垢にヴェールをつけて、ドレス風にしているのですが(ゲームではオフショルのウェディングドレス)その衣装がとてもかわいくてキュンとしました。帯もゲームのイメージに忠実で、羽根と花束があってかわいい。アップヘアにティアラを付けているのもかわいい。後れ毛がゲームに忠実でかわいい。それを着こなす米吉さんが最強。
わたしは映像を多用する舞台があまり好きではないのですが(それ生身の役者でやってみせて!って思っちゃうタイプ)ステアラレベルの規模になると、全然嫌じゃなかったです。ミストに映像を映し出す演出も、なんだか魔法みたいで面白かった。
歌舞伎に色とりどりの照明って、新鮮だけどすごく格好良いですね!動きが更にシャープに格好良くなる感じがします。超歌舞伎は、もっとすごいのかな・・・。行ってみようかな・・・。
ブリッツボールの場面は、正直ちょっとモタついて見えました。ゲームを知らない人には、水中のスポーツだってわかるのかなあ。吹き替えを使って格好良くやっていたので、もうちょっとテンポ良くやってほしかったです。この手の演出は既に2.5次元が格好良くやっているから、思い切ってもっと歌舞伎に寄せても良かったのでは。実況を義太夫節にしてみるとか。
最高すぎて溶けてなくなってしまいそうになったのが、マカラーニャの森の場面です。ゲームの完全再現じゃないですか。こんなにしっかり再現してくれるなんて!しかも、歌舞伎でキスシーンがあるなんて!(歌舞伎にはエグい濡れ場はあるくせに、キスシーンがない)映像を使いながら、主題歌を使いながら、物語の盛り上がりを美しく演出していました。この場面がもう一度見たくてチケット追加しました。


【シナリオ】
7時間を超える上演時間ですが、長いなと思わせる瞬間が一切なく、あっという間の冒険でした。ティーダがスピラに飛ばされて最初に会うのがリュックではなかったり、シーモアのエピソードが追加されていたりしても、過不足なく原作ゲームの面白さを再現していたと思います。むしろ、ゲームの進め方によっては、聞けない台詞を盛り込んでいたあたりに、制作陣のゲーム愛を感じます。
実際にゲームをプレイするとなると、大体50時間は掛かるのではないかと思います。それと同じくらいの感動や思い入れを抱かせてくれたシナリオに感激でした。
シーモアのエピソードが増えていたのが良かったですね。ゲームでは、しつこさが勝って、若干おもしろキャラになっていたシーモアでしたが、ティーダとユウナの親子関係に対比する、深みのあるキャラクターになっていたと思います。わかりやすくただの恋敵になるのではない立ち位置も良かった。でも、最後にユウナに対する想いを吐露してから果てるのが良い。原作を知らないで観劇したお友だちは、「シーモアが出てきたあたりから格段にお話が面白くなっていった」と言っていました。
FFⅩは、何度も天災に襲われ、大きな戦争でたくさんの人を失っても、何度も立ち上がって発展してきた国で生まれた物語だなあと思うのです。そこに、歌舞伎になる意義があると思います。この物語は、親子愛、希望、勇気、亡くなってしまった人への鎮魂。そんなものが詰まっていると思います。100年経ったら、FFⅩ歌舞伎も古典歌舞伎になっているかも知れない。その初演を見ることが出来たよろこびを、噛みしめています。


【音楽】
ほとんど全部の楽曲が、ゲームで使われていた楽曲の和楽器版で、感動しました!しかも、一部の鳴り物は生演奏だったよね!?「ザナルカンドにて」も「素敵だね」も、みんな美しく和楽器になっていたし、骨太な「Otherworld」や「ジェクトのテーマ」も格好良くなっていて素晴らしかった。ゲームとは違う使い方をしているのも面白かったです。原作ではザナルカンドでティーダが試合に向かう時に流れる「Otherworld」を、アーロンが戦うときに使うのとか。デスボイスを歌舞伎変換するとこうなるんだね!
いつもの歌舞伎公演と全く違った客層(男の人が多いのに驚いた)で、ロビーでなんか緊張しちゃったんだけど、いつものお囃子が聞こえてきたときにはほっとした(笑)


【キャスト】
ティーダ/尾上菊之助
実は、菊之助さんに少年のイメージがなくて(出会ったときは既に大人だったからね。美少女のイメージはある)配役が発表される前は『菊之助さんがユウナをやって、ティーダはマッティ(松也)がやるのかな』と思っていました。
でも、実際には、見れば見るほどティーダでした。最初はちょっと痒く感じた若者言葉も、芝居が乗ってくると、熱くて、真っ直ぐで、ティーダそのものなんです。本当にゲームのティーダが目の前で喋ってる!と思うくらいにティーダでした。台詞回しだけでなく、ちょっとしたポーズひとつひとつもらしさがあって、特にバトルの場面の構えとか、徐々に戦いに慣れていく姿とか、顔の角度がそのまんまで感激でした。見得にもティーダらしさがあった。そう感じるのは、原作とは違ったあのヘアスタイルの効果なのかな。原作のティーダにはない髷が、少年と青年の狭間に立つ快活さをうまく表現しているなと思ったのです。絶妙な改編だと思います。
マカラーニャの森の場面では、キスシーンがあると思っていなくて「ぴゃー!!」となりました。シーモアのそれと比べるとちょっとぎこちないのが萌えた。ヅカ式キスシーン警察のわたくしも、100点満点を捧げたい。所作事もとても美しく、まさか歌舞伎でデュエットダンスを見るとは思っていなくて、感激しきってしまって号泣。マスクがびしょびしょになりました。そこからの恋人繋ぎですよ!!その時わたしは大興奮しながら号泣する、世界で一番幸せな情緒のおかしな人になりました。
ゲームをリアルタイムでプレイしていたとき、わたしは「とはいえティーダが消えるはずがない」と信じてエンディングを迎えたんですよ。だって、まさか主人公が消滅するなんて思わないじゃん。なので、このお話の結末が大ショックで、その日は泣きながら母にティーダが消えてしまったことを訴え、味のしないご飯を食べたことを覚えています。歌舞伎でも、全く同じところで同じ感情になって泣きました。祈り子像が石化して、夢のザナルカンドの住人が消えていく映像で、嗚咽を押さえるためにタオルを噛みました。
シンにスピラに飛ばされたときは、怒ったり喚いたりしていたのに、自分自身が祈り子の夢だということを知ったときに、運命を受け容れるティーダの成長に胸を打たれました。だからなおさら、ティーダとのお別れが悲しくってね。ここの成長を見せる菊之助さんのお芝居の機微が素晴らしくってね。少年のイメージがないとか言ってたけど、少年期の不安定さと真っ直ぐさを、こちらの心に届くまで丁寧に演じていて、本当に「ティーダを演じてくれてありがとう」と思いましたよ。


ユウナ/中村米吉
米吉さんのことは、初演のナウシカ歌舞伎のケチャで覚え、歌舞伎座国立劇場で、かわいいかわいい女方を拝見し、インスタライブで素の良く喋る姿に若干引き(今はすっかり慣れてトークショーにも行っている)ナウシカ役で絶対的に信頼出来る役者さんになり、オンディーヌ(外部公演。女優さんと同じ舞台に立ち、お喋りな水の妖精の少女を演じた)で女方の技の奥深さに感激し、つまりかなり好きだってことです。なので、とてもとても期待していました。
見る前から大勝利は約束されていましたが、想像していた以上にかわいくて可憐で、強くて頑張り屋さんのユウナそのものだった!ナウシカを演じて、オンディーヌを経て、このユウナだなと思った。女方でなければ出来ないユウナだったとも思う。女性がユウナの仕草をそのままやってしまうと、カマトト感というか、ぶりっこ感が出てしまいそうでヒヤヒヤすると思うけれど、女方は嫌味なくそれができる。
ユウナはティーダのことを「キミ」と呼びますが、この絶妙な距離感が出せるのは、女方と立役の間柄だからだと思います。ある種のマジック。現実に女の子が男の子のことを「キミ」と呼んだときとは違う空気が流れます。
米吉ユウナは、ティーダのことをいつ好きになったのかが明確で良いですね。ほとんど一目惚れだったように思います。ちょっぴり積極的なところも(自分から一緒にいて欲しいと伝えたり)歌舞伎の女の子らしくて良かったです。
異界送りは、もっと舞踏に寄せた場面になると思っていました。クレーンを使って印象的に作られていましたが、個人的にはもっと踊って欲しかったです。ゲームの水柱が再現されていて素敵だったんだけどね。わたしはもう少し歌舞伎に寄せて欲しかったかな。
ゲームそのまんまで感動したところはいっぱいありますが、結婚式でシーモアにキスされて拳を握りしめる場面を再現してくれて感激しました。米吉ユウナは着物の袖をぐっしゃぐしゃに握りしめて、その悔しさを表現していたので、その乙女心がいじらしかったです。でも、歌舞伎では唇をぬぐわないんだね。よかったね、老師(笑)ウェディングドレス姿でシーモアに連れ去られるユウナが「よよよ」としていて、歌舞伎のお姫様っぽくて良かったです。
ユウナがスフィアに遺言を吹き込むところで、毎回爆泣きしていました。「大好きだよ」が、本当に愛情たっぷりで、中の人は本当に修ちゃんなの?と思うなどした(ひどい)特に、かわいくて大好きなのが、ティーダへの想いを語るところ。恋の相手をこんな風に語れるユウナって、なんて可憐なんだろうと、涙が止まらなくなってしまうのでした。
ティーダとの別れのバックハグなんて、泣きすぎて何も覚えていない。いや、覚えてるけど。いろんな想いを巡らせているのが痛いほど伝わってきて、舞台上のお芝居が、こちらの心に触れてくるのを感じました。
最後の場面で、指笛を鳴らしてティーダを探しているユウナが目の前だったときは、コンタクトレンズを流す勢いで泣いた。もうずっと泣いてた。
ユウナの演説でも泣いた。こんなにもあたたかくて、重みのある台詞になるとは思わなかった「思い出して下さい」。歌舞伎役者が「いなくなってしまった人たちのこと 時々で良いから 思い出して下さい」と言う、この重みよ。歌舞伎の歴史がこの台詞に込められていると思いました。脈々と受け継がれてきた芸は、今を生きる役者の中の、思い出の中にある。この台詞を歌舞伎役者が言うから、FFⅩを歌舞伎化する意味があると思いました。
ゲームではユウナの演説で終わり、エンドロールが始まるので、余韻と涙の波が押し寄せてきて大変なことになるのですが、歌舞伎はわくわくカテコタイムがあるので笑顔で帰れる。これがなかったら、みんなゆりかもめで泣いてる(笑)カテコの菊之助さんと米吉さんがあまりにもラブラブなので、米吉さんが菊之助さんのお嬢さん達に嫌われないか心配しています。


シーモア/尾上松也
菊之助さんは、クシャナといい、この手のキャラクターが本当に好きだよね~!ゲームよりエピソードが増えていて良かった。松也さんのニンにも合っていて良かった。艶っぽくて影がある。なんかですます調なのに萌えた。シーモアのお母さんがアニマの祈り子、という設定は頭に入っていましたが、そこにい至るまでの家族の葛藤が描かれているのが良かったです。ゲームだと、スフィアで見られるんだっけ?
それでシーモアを好きになれたかというと、好きにはなれないけれど同情できるキャラクターになったな。やっぱり、ユウナを顎クイするところなんか、立ち上がって「やめて!!ユウナに触らないで!!」と叫びたくなったし(絶対にやめてください)なんかキスが手慣れていてむかついた(褒めてます)
歌舞伎的な見せ方が多いのが良かったな。ぶっ返りや、倒れるところ(知盛みたいなやつ)青い隈取りなど、歌舞伎の力強い表現がたくさんあって印象的だった。
ビジュアルがすごい特徴的というか、すごいかつらなんだけど、2回目に見たときは、そのかつらも馴染んでいて、不自由なさそうで、役者さんの適応力ってすごいなと思いました。
面白かったのが、1幕ラストのシーモアバトル。シーモアとルールーの魔法対決は、ふたりがどの魔法を使っているのかが明確にわかって楽しかった。どうしても歌舞伎だから、老師はロッドを使って戦っていて、しかも松也さんが身のこなしが軽やかなものだから、なんか武闘派になっていて面白かった。あと、事ある毎に懐から短刀を出してくる老師が面白かった。トドメは短刀なんかい。
シーモアが、最後にユウナに「あなたは私の安息だった」と告げて散るのが、すごくいいなと思いました。シーモアが欲しかったものがわかって、この家族でシーモアが得られなかったものが「安息」だったんだなとわかって、シーモアの恋慕の詳細がわかって、心がとても近づいた気がしました。


アーロン/中村獅童
アーロンさんの格好良いところ全部盛りで大満足だった。登場の名乗りから格好良すぎて、満足メーター振り切っちゃった。シンに(ジェクトに)「いいんだな」と確かめるアーロンさんが好きなんですけれど、そこもしっかりやってくれていて嬉しかった。
舞台では若干ヒヤリとする台詞の間も、ゲームそのままで懐かしかった。アーロンさんはね、溜めるのよ。そこが謎めいていて格好良いのよ。
立ち回りも格好良かったな~~。思い切ってアーロンさんの立ち回りの時の曲を「Otherworld」にしたのは良い改編だと思います。似合うもん。オーバードライブの技も格好良かった~~。獅童さんがノリノリで凄く良かった。あんなに大きな武器を持っていても、タイトな立ち回りにまとまるのだから凄いなと思った。格好良さの中にもお洒落さがあったよね。
若いアーロンの拵えも素敵でした。アーロンさんはどうして縁談を断っちゃったの?ブラスカ様のことが好きだったから?
ユウナレスカにひとりで挑んでいく演出になっていたのは良かったな。ゲームだと総力戦になるのですが、この戦いはアーロンにとっては、ユウナレスカへのリベンジなので、ひとりで戦うのが良かった。
カテコの獅童さん、客席に降りてくるときに動作がゆったりとしていて「さすが撮られ慣れているな」と思った(笑)


ルールー/中村梅枝
まさか梅枝さんがゴリゴリの新作に出るなんて思わなかったよ。FFⅩは結構やりこんでいたそうで、そりゃわたしと同い年だもんなと思いました。それぐらいのムーヴメントだったのですFFⅩは。
立ち姿が完璧にルールーで、動いても完璧にルールーで、360度美しくって、格好良くて、やさしくて、後悔と懺悔を抱えているのが、声に現れていてとても素敵だった。梅枝さんの女方の魅力が全部そこにあった。
立ち回りの魔法がとても綺麗だったな。海老反りも「ここぞ!」という時に美しく決めてくれるので、これを見て「ああ歌舞伎だ!」と感じた人も多かったのではないでしょうか。贅沢を言えばモーグリを動かして欲しかったです。ゲームでは、ルールーが魔法で操ったモーグリが敵を攻撃するのです。FFⅩを知らないお友だちには「ぬいぐるみ好きなお姉さん」にしか見えないのではないかと思いましたが「戦うときにしか持ってないから、なんらかの武器だってことはわかったよ」と言っていました。
チャップのエピソードが丁寧でよかった。しかも、異界に出てきたチャップがちゃんと菊之助さん扮するチャップだったのが良かった。ワッカへの突っ込みも、クールな中に特別な感情が感じ取れて良かった。
あとね、まさかズーク先生まで出てくるとは思わなかったですよ。ルールーのガードとしての旅が3回目だということを扱ってくれてありがとう。
「まだお礼も言えてない」の梅枝さんの台詞が印象に残っています。ルールーにとって、亡くした恋人に似たティーダは、どんな存在だったのかな。


ワッカ/中村橋之助
橋之助くんには『長男なのに弟キャラ』というイメージがあって、『主人公の兄貴的存在な中井和哉』をどう表現してくるのだろうと、楽しみにしていました。ワッカのかわいらしい、憎めないところを押し出して、自分のキャラクターに寄せて、橋之助くんらしく作ったワッカだなと思いました。声は元々、中井和哉に似た声質だと思うので、「そのもの感」が増していると思いました。
ブリッツボールの終盤、格好良かったな~。ワッカは全身オレンジ色なので、ジャイアンツカラーに包まれて嬉しそうだなと思いました(中の人は巨人ファン)
リュックにメガポーション使ってもらえないワッカ(「ワッカはポーションでいっか」とリュックに言われてしまう)ルールーのことを「ルー」と呼ぶワッカ、マイクオフの芝居が楽しいワッカ。いろいろとそのまんまで楽しかったです。
アルベド族を受け容れられないお芝居が深くて良かったな。リュックやシドと関わっていくうちに、考えが変わってゆくお芝居も良かった。ワッカは平均的なスピラの住人代表みたいなキャラクターだと思うので、この世界が抱える問題をリアルに届けてくれるのが良かった。
あと、自前のヒゲが似合っていて、格好良かったので、剃らないで欲しい(無理な話)浅草のプログラムで「脱毛したい」って言ってたけど、格好良いから脱毛しないで欲しい。


リュック/上村吉太朗
いや、かつら可愛い過ぎんか。まとめ髪になっていて、後ろに大きなリボンが付いていて、三つ編みもあって、めちゃくちゃ可愛い。衣装のアレンジも可愛かった。スカートにフリルが付いていてかわいい。それを、吉太朗くんがとっても可愛く着こなすから、総じてかっわいい。新作だと、普段は着物の裾で隠れている女方さんの脚が見えるのが好きです。どんな風に脚を運んでいるのか、どの程度内股を作っているのか、足をどの向きに揃えているのか、を見てしまいます。たのしい。
ユウナ一行の女子三人、かわいいよね。リュックは賑やか担当で、座組の中で一番若い(もちろん子役を除いてね)吉太朗くんが元気に演じているので頼もしかった。ユウナをちゃんと「ユウナん」と呼んでいるのも可愛くって良かった。手を繋いで歩いているのも可愛くて好き。ごちそうに飛びつくのもかわいい。アルベド語でアニキと言い合うところがあって感激。
召喚獣イクシオンの名乗りで、雷コワイヨーってやっているのが、原作に忠実で可愛かったです。さっきから、可愛かったしか言ってないね。そりゃもう、かわいくて元気で、やさしいリュックだったんですもの。
カテコで近くまで来てくれたのに、声を掛けたらにっこり微笑んでくれて、かわいすぎてシャッター切れませんでした。いいもん、網膜に焼き付けたもん。これをTwitterでツイートしたら、爆速で「いいね」をつけてくれた吉太朗くんありがとう。若者のエゴサ早すぎる(笑)


キマリ/板東彦三郎
彦三郎さんは、絶対に声で選んだな、と思いました。キマリは無口だけど、声がめちゃくちゃエエのです。
ビジュアルが優勝しているよね。一番歌舞伎のイメージに近くなっている。ロンゾ族の雰囲気そのままに歌舞伎化している。プログラムのスチール写真の隈取りよりも、実際に舞台で見る隈取りの方が、書き込みが細かくて、綺麗でした。カラコンをしていても、顔がボケないのは隈取り効果かなと思いました。
ロンゾ族にいじめられていたエピソードもちゃんとやってくれて感激しました。キマリの角が折れている理由もちゃんとやってくれて、本当に丁寧なホンだなあと思うのでした。
キマリのとっておきの笑顔、かわいかったですよね~~。こちらまでニコニコしてしまった。あの笑顔、守りたい。


ルッツ/23代目オオアカ屋/中村萬太郎
歌舞伎ファンが「歌舞伎鑑賞教室」FFファンが「チュートリアル」って呼んでいる口上、とても良かったですよね。わたしは2回観に行ったのですが、2回とも盛り上げ方が違っていて、ちゃんと客席を見てコミュニケーションを取っているのが素晴らしいなと思いました。配役発表になったとき、すっかりオオアカ屋のことを忘れていて「誰?」と思ったのですが、「あの高額転売してくる、貸した金を返さないやつか!」と思い出して笑いました。この憎めないキャラクターを、最初に舞台に登場させた効果は抜群だったと思います。ほとんどのお客さんが歌舞伎初体験で、「未知の世界」に足を踏み入れたことを讃えてくれる歓迎が、とても気持ちが良かったです。
ルッツは「やっぱり芝居が上手いな」と思いました。なんていうか、チームで並んでいても、目が引き寄せられるんですよ。もう一役あってもいいのかなと思いました。もっとお芝居が観たかった。


ティーダ(幼少期)/祈り子/尾上丑之助
歌舞伎のお客さんの「誰某さんの息子さんよ。一生懸命でかわいいわね、ウフフ」という雰囲気が、子役とは言えひとりの役者に対するリスペクトに欠けていて嫌いなのですが、この客席には一切そのような雰囲気がなく、清々しかったです。舞台に向けられたリスペクトがあったし、超重要な役を演じている丑之助くんのお芝居を、真っ直ぐに受け止めて見守っていた。まず、そこに感動してしまいました。
ジェクト戦のティーダは、本当はお父さんが大好きで、一緒にブリッツボールをして欲しかった、ティーダの本音に見えました。口では「大嫌いだ」と言いつつも、本当はお父さんのことが大好きなんだ、というのが、ジェクトに飛びつく小さなティーダの全身から溢れていて、わたしの目からは涙が溢れました。ほんと、ここの丑之助くんの使い方はずるい。泣いちゃう。お父さんと同じ役をやれるってなかなかないから、嬉しかっただろうな。
祈り子は「あなた本当に9歳なの!?」と思う程にお芝居が深かった。いつも丑之助くんには「人生何周目なの!?」と驚かされますが、祈り子の「疲れちゃった」の言い方が、本当に1000年夢を見続けてきた人のそれで凄まじかった。物語の肝になるこの役を、丑之助くんに任せた菊之助さんも凄いけれど、なによりそれをしっかりやっている丑之助くんが凄い。もはや恐ろしい。一体どんな演技指導をしたら、こんなお芝居が出来るんだ。


ユウナレスカ/中村芝のぶ
ナウシカの時(男になったり女になったりして凄まじかった)に凄いと思った役者さん。以降あまり大きなお役でみることが叶わなくて、いろんな事情を察してしょんぼりしていました。
ユウナレスカの他にティーダのお母さん(映像だけだけれど)をしているのが、演劇的で良いなと思いました。ザナルカンドのサポーターのギャルも可愛かった。
強敵に相応しい芸だよなと思うのです。芝のぶさんの台詞回しや声の迫力、神話的な美しさ、陶酔感、それらがユウナレスカそのもの。SNS芝のぶさんを絶賛する声が多いのも納得です。


ブラスカ/中村錦之助
若々しい錦之助さんの声ダイスキーなので、ずっとニコニコしちゃった。あと、顔が良い。ゲームやるの意外です。あんなに顔が良いのに(顔関係ない)
三蔵法師のイメージで演じられていたそうですが、確かにブラスカご一行は西遊記っぽいところあるな!自分のことを「落ちこぼれの召喚士」って言うのがかわいかったです。


シド/中村歌六
Ⅹのシドってこんなに格好良かったっけ?粋だったなあ格好良かったなあ。歌六さんが出てきた瞬間の舞台の引き締まり方が半端なかった。さすが、若い頃にスーパー歌舞伎でバンバン新作に出ていただけのことがあるよ。歌舞伎と新しい世界の接着力っていうの?引き合わせる力が凄いなって思った。突然義太夫節が始まっても「このシドなら当然だよね」という納得感が凄い。むしろ必然性を感じた。
「親父はみんなのオヤジ」っていうのがしっくりくるシドでした。


ジェクト/坂東彌十郎
もう絶対に泣くでしょ。彌十郎さんが「絶対泣くぞ」の台詞を言うと決まったときから泣いてたもん。
映像での出演が多く、ここぞという時にしか登場しないのも贅沢で良かったです。更にジェクトが大きな存在に見えてくる。
ジェクト戦の時は、さすが彌十郎さん、とても大きく見えて、ティーダとの体格差に泣きました。ティーダにとって、ジェクトはいつまでも大きな存在なんだなって思った。「ちゃんとメシ食ってんのか?」の台詞が不器用で暖かくて、もうジェクト戦はずっと泣いてました。
歌舞伎役者にとって、父親って、普通の人の感覚とはちがうんじゃないかなって想像するんです。そんな父親を持つ人たちが、渾身のお芝居をしているのに涙が止まらなかったです。


【生きていてよかった】
まだまだ語り足りないところがあるのですが、わたしと会う予定のお友だちは、FFⅩの話を聞いてやって下さい。本当に楽しかった。
終演後、心の底から「この作品に巡り会えて良かった!生きていて良かった!」と思って泣く作品は、実は滅多にありません。この作品はまさにそれでした。わたしの期待に応えてくれて嬉しかった。また、この世界を冒険することが出来て嬉しかった。大好きなキャラクターに会うことが出来て嬉しかった。この気持ちは、確実に明日を生きるための活力になります。それが、この作品に関わった人たちに、届くと良いな。届けば良いな。


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