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新橋演舞場『新作歌舞伎 風の谷のナウシカ』

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楽しかったです



 

【期待】


未だに興奮が冷めないでいます。この作品を経験できたことが、あまりに自分の中で大きな出来事だったようで、言葉が次から次へと溢れてくるのに、一向にまとまらない。今のわたしは、口を開けば「ナウシカ」「歌舞伎」「クシャナ殿下」などのうわごとしか出て来ません。それでは、そのうわごとを並べて、この素晴らしい経験の記憶を、ブログにまとめたいと思います。
昼の部は2019年12月21日。夜の部は翌日、22日に観劇しています。菊之助さんが腕を負傷された後、宙乗りと所作事が復活していました。
完全にネタバレしていますので、ディレイビューイングを楽しみにされている方は、ご注意くださいませ。


映画版の『風の谷のナウシカ』は、物心ついた頃には既に観ていたので、この世界観のファーストインプレッションは覚えていません。(1984年公開ってことは、わたしが生まれる3年前なんですね・・・)少女時代に特に印象的だったのは、メーヴェに乗って空を自在に飛ぶナウシカと、小さな王蟲を抱いた幼いナウシカが「殺さないで」と泣く場面。ラン・ランララ…という少し不気味で優しい歌。『となりのトトロ』や、『魔女の宅急便』に比べると、幼少時代のわたしにとっては、ややこわいお話でした。
漫画原作に出会ったのは、高校生か、大学生ぐらいの時だったかと思います。ちゃんと読んだのは大学生の時だったかな。映画版のナウシカと、漫画版のナウシカのあり方の違いに戸惑ってしまい、終盤のお話の難解さに、理解を深められずに終わった。それでも、時々漫画を読み返しては「ははあ」と感心して感動していた。最終的にナウシカは人間の哲学的命題と文字通り戦って、人間が生きるということの業の深さを思い知って、それでも生きる。ということは理解できるのですが、どうにもしっくり来ないっていうか、理解が追いつかない難解な漫画でした。それでもこの作品に惹きつけられてしまうのは、クシャナの存在と、彼女が背負う宿命の重さにあります。別に男だって良かったクシャナを、あえて皇女という立場で描いたことで、このお話は何百倍も面白くなったと思います。ナウシカには強い母性を求めているけれど、クシャナにはひとりの強く優しいリーダー像が投影されていて、そこにクシャナがいなかったら『風の谷のナウシカ』ってかなりしんどい作品になっていたように思うのです。それでいて、クシャナは女ですから。そこが好きです。


このような原作愛を持っていたので、「風の谷のナウシカが新作歌舞伎になる」というニュースが耳に入った瞬間から、わくわくが止まりませんでした。歌舞伎に対する信頼は、『ワンピース』や『NARUTO』で培っていたので、何も不安はありませんでした。


尾上菊之助さんのことは、実はあまり知らなくて、『犬神家の一族』で佐清を演っていたこと(めっちゃ怖かった)と、その印象しかなかった。わたしのTwitterのTLには、歌舞伎のトピックスがたまに流れてくるので『マハーバーラダ戦記』の評判を目にして、「興味あるな」とは思っていました。観に行けば良かった。「歌舞伎界で挑戦的な、実験的なことをされている人」という印象があって(歌舞伎役者さんで挑戦的でない方というのはあまりいない印象なんだけど)何も知らない癖に「この人なら絶対に大丈夫だ」という謎の安心感がありました。ちなみに『グランメゾン東京』は見ていません(普段テレビドラマを見ない人)
キャスト発表でクシャナ中村七之助さんが演ると知った時には、「何がなんでも新橋演舞場に入るぞ!!」という強い気持ちを抱いた。新橋演舞場の客席に座って、花道を歩く七之助さんのクシャナ殿下を観る!というイメトレまでした(笑)イメージを強く持つということは重要なのである。『阿弖流為』の立烏帽子をシネマ歌舞伎で観ていたので、「クシャナ殿下、似合うに決まってるじゃん!!歌舞伎界でクシャナを演じられる人って、七之助さま以外にいないじゃん!!」と、まだ何も見ていないのに大興奮した。中村七之助さんという方は、昔からテレビで拝見していたのですが、彼の女形の姿を何かの映像で見たハタチそこそこのわたしは「おとなになったら、中村七之助を見るんだ」という憧れを抱いたものです。その夢が叶った公演となりました。
尾上松也さんは「歌が上手いお兄さん」坂東巳之助さんは「ナルトだった人」尾上右近さんは「ワンピースで猿之助さんの代役をやっていた人」片岡亀蔵さんは「阿弖流為でクロトワみたいな役で、お嫁さんがクマちゃんだった人」という、キャストに対するたいっへん偏った印象と期待を以って、わくわくに拍車を掛けたのでありました。


ちなみに、歌舞伎に関する知識は初心者レベルです。学生時代になんとなく勉強したことがあって、まだらに知っている部分がある程度です。古典は観劇したことがなく、映像も資料程度にしか見ていません。


チケット争奪戦に勝利した時は、歓呼三声を上げるほどに大喜びして、公演までの時間を数える日々が愛おしくなるくらいに、楽しみにしていました。実家がなくなってしまったトラブルと共に原作漫画を紛失してしまい、復習出来ずに困っていたら、遠方に住むお友達が貸して下さり、ばっちり復習することも出来ました。昼夜通しでは見なかったのですが(二日に分けました)いっぱいある幕間まで、存分に楽しむために、おやつをいっぱい仕入れて新橋演舞場へと向かいました。

 


【シナリオ】


映画の内容は全7幕のうち、序幕で終わる。それでも駆け足だなあとは感じさせないのは、歌舞伎ならではの時間の緩急のなせる技かと思う。2幕からは、漫画でしか見たことのない世界。その世界を歌舞伎のコードで展開してゆく、冒険のようなわくわく感がたまりませんでした。


昼の部では、「きっと泣く泣くカットした場面があるんだろうな〜」と思いつつも、好きだったコマを残してくれたのが嬉しかった。特に、女の子たちの、何気ないやり取りが削られてなかったのが嬉しかった。ケチャの「その服狙ってたのにな」とかクシャナの「後ろを留めてくれないか」とか。その辺りがめっちゃジブリ。そして、クシャナの身嗜みを整えてあげるナウシカにめちゃくちゃ萌えた。取り乱すくらいに萌えた。


夜の部では、難解な概念VS概念という展開を押し進めていくのに、台詞劇が続き「もっとテンポよくやらんかい」と思う部分はありましたが、その後の歌舞伎ならではの演出が壮絶で圧倒されまくるので、グダったり退屈する隙はありませんでした。でも、原作を知らない人にとっては、なかなかついて行くのに厳しいシナリオだったのでは。テトがいきなり死ぬし(でもわかるの、この場面は庭につながる場面だし、泣ける場面だから絶対にカットしたくないという気持ちはすごくわかるの)
台詞で進められる部分以外にも、浄瑠璃を用いた部分でも物語のディテールが語られている。ディレイビューイングで詞が字幕で出てくれたらいいなあと思うのですが。文字の方が言葉が頭に入って来やすいような気がして。イヤホンガイドではこの辺を解説してくれていたのでしょうか。今回は、自分が感じたままを作品の感想にしたかったので、イヤホンガイドは使わなかったんですよね。
しかしながら、この難解なお話をよくまとめ上げたものだなあ、世の中には頭の良い人がいっぱいいるんだなあと思いました。そして、漫画ではなかなか理解できなかった部分が、この作品を経験することによって、ストンと腑に落ちたような気がします。それは、シナリオだけの力ではなく、演劇というジャンルの芸術や娯楽が人間にもたらす、カタルシス的な経験に基づくものだと思うけれども。

 


【音楽】


すごいんですよ!映画版の音楽を和楽器で演奏(録音もあったようですが)していて、それでいて違和感がないし、むしろこの劇場の中で厳かに絢爛に響いているんですよ。NARUTOの時にストレスになった、芝居中のうるさいBGMみたいな演奏は一切なかった。その辺りに2.5次元の雰囲気がなかった。
また、音楽による国々の表情、登場人物の表し方がミュージカル的で気に入りました。トルメキア王国は荘厳で睨み合う蛇のようなマーチ、土鬼は怪しげな呪文が響く宗教的な音楽。サントラ出して欲しいなあ。特に、序幕の口上後、腐海の奥に王蟲が佇み、久石譲氏の楽曲の和楽器アレンジが響いた瞬間、ガッツポーズをしたし、勝利を確信した。歌舞伎の世界で響く音って、どうしてこんなに心地が良いのだろう。

 


【衣装】
細かく分ければ、着物だって平安風とか古代風とか神官風とか、なんとか風とかあるのでしょうが、わたしにはその辺りの見分けが付かないので全部お着物で言い表すしかないのだけど。テーブル文化なのに、酒場の女が振袖を着ていたり、クシャナ殿下は甲冑にマントを付けているのに軍人達は鎧を付けていたりで、文化の折衷感に「人類の数が減り、様々な世界の文化が集約されゆく中で、着物や和服が形を変えて服飾文化に色濃く残った感」があって、SFっぽいしディストピア感があってよかった(あまりにも現実的ではない展望だが、SFっぽいのだからこれでいいのだ)。
ナウシカの『青き衣』にも何種類かあって、所作事などがある場面では袖があり、メーヴェに乗ったり戦ったりする場面では、袖がスッキリしている。青き衣になる前のナウシカはたすき掛けをしてメーヴェに乗っているのも良い。かわいい。他にも裾がゴージャスだったり、シンプルだったりで、同じ『青き衣』でも、場面が表現したいものによって衣装のデザインが変わるのが、雄弁で面白いなと思った。
着物では、引き抜きという舞台上の早替えという技があるから、これもまた雄弁で鮮やかで「ああ歌舞伎だ!」と思えて、わくわくしました。
そもそも、わたし自身が和装や着物が好きっていうのがあるけれど、「あのキャラクターをこのデザインで表現するのか!」っていうなるほど感が楽しかった。わたしにもっとお着物の知識があったら、もっともっと楽しかったんだろうなあ〜〜。でも、お着物だけに限らず、もっと知識があったら…!と思う場面は多々あった。
でもね、劇中の僧たちが、意外にも直球のBuddhismでちょっと面食らった。並ぶと若干漂うお盆の法要風景。歌舞伎に変換すると、僧はお坊さんだもんね。


原作のナウシカはボブヘアだけど、歌舞伎のナウシカはポニーテールで(でも、帽子を被るとボブヘアのナウシカとなる。その変幻自在っぷりが舞台的でよろしい。)髪が揺れると少女らしさも漂って、可愛かった。タリア川の石のイヤリングも付けていてくれて、すっごく可愛かった。クシャナ殿下のヘアスタイルも、動きのある場面では高く結ったポニーテールで、動きのない場面ではシニヨンスタイル。作中でカツラのデザインが変わると嬉しくなっちゃうのは、宝塚オタクの習性なのかもしれない。床山さんGJです。

 


【演出】


歌舞伎の文法で語られた『風の谷のナウシカ』は、あまりにも壮絶で、あまりにも美しく、そして格好良かった!
口上から始まるスタイル、タペストリー幕、紗幕に映されるタイトルロール…新作歌舞伎への誘いは、今思い出しても鳥肌が立つくらいに鮮やかで、冒険が始まるようなワクワク感がありました。


昼の部で印象的だったのが、ユパ様の客席降りと客いじり(笑)、ユパ様とアスベルの本水での思わず声が出てしまうほど激しい立ち回りからの飛び六方、幼い王蟲の精とナウシカが心を通わせる舞踏(ここが子役なのがニクイところで、さらにその子役の舞がとても豊かなものだったので、涙が止まらなかった)、ミラルパが生き霊になってナウシカを襲いに来るところ。そして、メーヴェに乗っての宙乗りには、自分が風の谷の少女になったかのような錯覚に陥り、大感激しました。


夜の部では、道化による口上、主要な登場人物の名乗り(小池修一郎か!て思ったけど、こっちが本家だよねきっと)が七五調でカッコイイ!夜の部でも念力で襲ってくるミラルパがめっちゃ怖い、粘菌もめっちゃ怖い、ヒドラも再現率高すぎてめっちゃ怖い、ミラルパとナムリスの入れ替わりが本当にわからなくて「いつの間に!?」って大驚き(5列目で観てたのに!)、空虚に直面して子守唄を歌うクシャナクシャナを襲う蟲たちの迫力、王蟲の目を、触手を用いて大海嘯の中で死を覚悟し、生を諦め殆ど狂気に等しい情念を燃やすナウシカの舞踏(この場面が復活してくれて、本当に良かった!素晴らしいものを観た。この場面にはチケット代以上の価値があったと思うくらいに大感激した)、庭の主の圧倒的なお芝居(庭の主は原作を読んだ時にかなりエグいことを言ってくるので怖かったんだけど、歌舞伎の庭の主は演技が凄すぎて、怖いというよりはなんじゃこりゃスゴい!一色だった。褒めてます)そしてそして、大詰めの、オーマの精と墓の主の精の激しく壮絶な毛振りとダンスバトル(言い方)には、圧倒されっぱなしで1ミリも動けなかったし、あまりにも壮絶だったので後半ずっと泣いていた。まさか毛振りであんなに泣くとは思ってなかった。


これらの演出にどれだけワクワクしたかについては、キャストへの感想と共に並べてゆきます。

 


【キャスト】


ナウシカ尾上菊之助
どこを切り取っても「すごい」「かわいい」「姫ねえさま」としか言えない己の表現力を呪います。とにかくナウシカが可憐で健気だった。ナウシカって、物語が後半に進むにつれて、感情移入するとしんどいキャラクターだと思うんだけど、そのナウシカ女形が演じるという意味が大いにあったと思う。役者としての菊之助さんのキャラクターを全く知らないで語りますが、菊之助さんのナウシカの説得力が半端なくって。あの、慈愛に満ちた微笑みが神々しくって、心を奪われてしまった。
女型の技術的なところについては、全くわからないのですが、袖や裾がなくても、姫であり娘であるナウシカに見えるというのは、流石としか言えない。大きなカツラと美しい振袖がなくても、女型は女形ができるのだ。わたしは宝塚オタクなので、なんでも宝塚のコードに変換して語ってしまいますが、娘役の技術に似たものを感じた。膝を折る、足の運び、頭の垂れ方、肩の落とし方、手の使い方、視線の行方。ひとつひとつに魅了された。
そんなこんなで、菊之助さんのナウシカは、わたしにとって完全にナウシカだった。
昼の部の終盤では、戦から瀕死のカイと一緒に帰ってきて「この手を血に染めました」と泣くナウシカに泣いた。復活した宙乗りで、ナウシカが手を振ってくれて、それに返せたのにも泣いた。肩にテトが乗ってて可愛かったし、まるで風の谷の民になったような気持ちで、姫ねえさまに手を振れたことにも感動したし、菊之助さんの慈愛に満ちた微笑みにも泣けたし、満身創痍なのにメーヴェに乗った姿も神々しいしで、ドロンして闇の中に引っ込むまで泣いてた。序盤の溌剌とした姫ねえさまも大好きです。ミトじいとのやりとりも可愛かったな。
夜の部でのナウシカの所作事は、本当に美しくて神々しかった。お怪我をされても、あの場面を復活させて下さって、ありがとうという気持ち。白装束に早替えした瞬間に、自らオームと死ぬ決心をしたナウシカが見えて鳥肌が止まらなかった。すごい。こういう表現があるんだ…。人間の表現力って、こんなに豊かなんだ。衝撃だった。あの、女型のひとの感情が動くとき、大きく背中を反らせるやつ(こんな俗っぽい表現しか出来ないのが口惜しいんだけど、あれはなんていうの?そしてこの表現で伝わるんだろうか)が、本当に情感豊かで大感激した。
こんなに素晴らしいナウシカだったからこそ、公演中のお怪我が残念でした。その時にできることを精一杯見せてくださる菊之助さんの心意気には胸を打たれましたが、代役がいないというのは、興行的にどうなのかな、と思うところもあります。夜の部を観られなかった方の気持ちを想うと、たまりません。もちろん一番悔しかったのは、菊之助さんご自身だと思うので、強く再演を望みます。もう一度、ベストコンディションでこの作品に挑戦して欲しいと思っています。

 


クシャナ中村七之助
噂通り、一目見た瞬間から、クシャナ殿下の夢女となってしまった。クシャナ殿下のガードがしたい戦場へ赴くクシャナ殿下のお付きの女官になりたい。毎日、髪を編み上げて差し上げたいと、速攻でお友達にLINEしまくるくらいには頭がおかしくなった。
クシャナ殿下のおな〜り〜」の声に、劇場中のオペラグラスが上がる気配を感じたのが面白かった。まあ、わたしも上げたんですけどね!
クシャナ殿下のマント捌きが神々し過ぎて、ラインハルトかと思った。スターブーツ()で脚を組むクシャナ殿下がローエングラム侯かと思った。銀河帝国かトルメキア王国か。凰稀かなめ中村七之助か。ヅカヲタはなんでも宝塚のコードに変換しがち。いやしかし、トップスターのような麗しさと格好よさだった。
スターブーツ()で足を組むクシャナ殿下も、一人称が「妾」のクシャナ殿下も、鞭をへし折るクシャナ殿下も、ナムリスに「我妻さまと呼べと!?」とご立腹のクシャナ殿下も、それをすべて七之助さんがノリノリで演じてくださるから、いちいち萌えまくって頭がパーンってなってた。そして、細かすぎるところではありますが、クシャナ殿下は、TPOに合わせて髪型を変えるので、女子力高くて萌えた。囚われても髪型を変えるのである。戦の時はポニテで、戦わない時にはシニヨン。かわいいぜクシャナ。ナムリスに捕らえられた時、婚礼の衣装っぽい衣装に着替えさせられてて、『なにそれ、敵役に結婚を迫られる宝塚のヒロインの定石じゃんか…(ヅカヲタはなんでも〜略)』って思った。
真面目な感想も並べよう。噂のクシャナ殿下の子守唄。優しく響く歌声と旋律(風の谷もトルメキアも、伝承されている子守唄のメロディは同じなのか、と感動した)にも泣けたけど、瀕死のクロトワを抱いてトントンしてあげていて、それにも泣いた(ずっと泣いてる)あの場面がクシャナの一番の見せ場だったと思う。でも、兄達との確執や、悲惨な母娘の描写が台詞だけでなぞられてしまい、意外とあっさり通り過ぎていた。第三皇子はもっと憎々しくても良かったと思うし、クシャナの母が出てきた方が、原作を知らない人もクシャナのドラマに入り込めたのではないかな。例えば、七之助さんがクシャナと母を二役で演じる、とかさ。ナウシカクシャナの共通点が、母からの愛に餓えた娘だと思っているから。わたしはあの場面ではぼろ泣きだったのですが。七之助さんのスター性でドーンとやっている印象は否めませんでした。素晴らしかったんだけど、この説得力は歌舞伎というかどっちかっていうと、宝塚のような押し出しのような気がします。欲を言えば、七之助さんの舞踏も見たかったです。ナムリスの生首をぞんざいに扱う美女も見たかった。七之助さんのクシャナは女型っていうか、立役っていうか、男役っぽかった。
でも、お芝居としてとても感動したのが、ずっと気になっていたクシャナのマント(ナウシカに貸してやらんのか、とヤキモキしてた)の行く末です。ヴ王の最期のお芝居も、すごくすごく良かったのですが、クシャナヴ王の亡骸にマントを掛けてやるっていうのが、とても刺さった。歌舞伎の世界では、このような場面を父と息子でやるものだと思うのですが(というわたしの先入観)父と娘、という新鮮さに胸を打たれたし、人間が物語を演じることの奥行きの深さを感じることができました。

 


・ユパ/尾上松屋
一番印象的で楽しかったのが、ユパ様の愉快な客席降りだったとは口が裂けても言えない(言ってる)『うたかたの恋』のブラッドフィッシュみたいだった(笑)でも、松也さんならではのユパ様だったよね。
確かに松也さんはユパ様としては若々しいんだけど、あの本水での立ち回りを見たら納得する。階段からの大ジャンプには思わず”Fooo!!”と声が出てしまった。まさか歌舞伎を見に言って”Fooo!!”という歓声を上げるとは。アスベルとの見栄と六方も大迫力で、水しぶきを上げて花道を文字通り飛び去ってゆく様が見れたのにも「歌舞伎だーー!!」と思うことが出来て、満足度が上がりました。お友達が、あの場面を「あそこで脱水しておかないと、お衣装が乾かないからね」と言っていて笑った(笑)
松也さんのルキーニが観たいので、今年のエリザベートは是非観に行こうと思います(歌舞伎じゃないのかよ)

 


・口上/アスベル/オーマの精/尾上右近
口上から始まる演目を見たことがなかった(あ、でも宝塚の初舞台公演には、口上がついてる時があるね)ので、溌剌としたイイ声に誘われてこの世界に入り込んで行くのが新鮮な体験で、心地よかったです。
右近さんのアスベルは、格好良すぎて「アスベルにしては王子様過ぎないか」と思ったけれど、全てがさわやかだったので、途中から目が離せなかった。そりゃあ、ミトじいも姫様とのロマンスを期待しちゃうよね。アスベルには「ヒエェ、カッコイイ」と脳内で絶叫する場面が2度あった。1度目は、蟲に襲われているところ。2度目は、本水の立ち回りの後、濡れた衣装を花道で絞っている(脱水している)ところ。文字通り端正で素敵で、キャーキャーした。
そして特筆すべきはオーマの精なんですけれど、わたしは歌舞伎の毛振りというものを生で見たことがなかったので、大興奮しました。こんなに壮絶で激しいものなのか、と。にわかに『連獅子』の知識があって「オーマと墓の主は親子じゃなくない?」と混乱したのですが、この場面は『派手でバトルっぽいから毛振りでやってみた』という場面なんですよねきっと。オーマの精ダンサーズVS墓の主の精ダンサーズのダンスバトル(言い方)も本当にすごかった。トートダンサーみたいだったし、闇VS闇みたいな構図がもうね。義太夫のセリフが、漫画でのオーマのセリフだったりして、耳に入ってくる切ない叫びと激しい舞踏に圧倒されて、圧倒されて1ミリも動けなかった…。ナウシカの腕の中で息絶えるオーマに泣いた。
とにかく、右近さんには公演中、ご飯をいっぱい食べて欲しいと心から思った。昼の部も夜の部も大活躍で、運動量がとにかく多い!あんなに激しい殺陣と毛振りをやっていたら、1日で5キロくらい痩せてしまいそうだ。チコの実を長靴いっぱい食べさせてあげたい。チコの実を食べる場面がなかったので心配になるなどした。

 


・クロトワ/片岡亀蔵
キャストが発表される前から、絶対にクロトワは亀蔵さんだと信じて疑わなかったので、発表された時は超嬉しかったです。そして、期待通りのクロトワでした。『阿弖流為』でのイメージが強すぎるんだなあ、こういう食えない裏切り者がお上手だなあ。わたしの中では完全に、裏切り者キャラのイメージが定着してしまったので(笑)この先、全然違う役柄の亀蔵さんにも出会えたらいいなと思います。

 


・ミラルパ/ナムリス/坂東巳之助
巳之助さんのナルトを見て『お日様のようなナルトだったね!エネルギーが陽!暖色系!明るい!朗らか!』という感想を残したのだけど、ものすごい裏切られたね!!ミラルパが怖すぎて吃驚したね!!念力でナウシカを襲ってくるミラルパが恐ろしいこと。子供だったらあの場面で泣き出すわ。そして、ナムリスへの入れ替わりも鮮やかで、完全にサイコパスなナムリスへの変わり様に感嘆しました。でも、死に方が意外にもあっさりしていたので、やっぱり生首になってクシャナにぞんざいに扱われて欲しかったな(2回目)巳之助さんは、お芝居が大好きなんだろうなあ、楽しそうだなあと感じるくらいに活き活きとされていた。この人が出ている舞台がもっと見たい!と思った。歌舞伎はもちろん、現代劇も見てみたい。

 


・ミト/市村橘太郎
ミトじいがミトじい過ぎて、ミトじいのブロマイドを買いました(愛おしい)
売り場で「ミトじい!かわいい!」と騒ぐわたしたち。夜の部のカテコにミトじいがいない事を残念がるわたしたち。ミトじい以外の城オジもとっても可愛くてチャーミングで、ガンシップに着いてきて欲しかったけど、ちょっとだけでも風の谷の城オジたちを出してくれてありがとう。

 


・ケチャ/中村米吉
「えっ??歌舞伎に女の人が出てる??」と混乱するくらい、女の人にしか見えなかった米吉さん。筋書のインタビューでケチャのことを『この世界の平均点のような役』と言っているのが印象的で、その解釈がとても好きでした。だからこそ、本当の女の人に見えたのかもしれない。お姫様とかでは、どんな役作りをされる方なんだろう。役者としてとても気になる存在でした。

 


・口上/道化/中村種之助
通しで観たら、口上での道化の軽快さと、墓での豹変振りにもっともっと吃驚出来たのかもしれない。もちろん、道化に墓の主が乗り移った時の只者ならぬオーラは凄まじかった。今思い出すと、ああ、もう一度原作を読み返したい!比較したい!と思うような演出でした。もうちょっと色々考えながら観たかった。一度では追いきれないキャラクターだった。

 


ナウシカの母/庭の主/中村芝のぶ
声の芝居で、こんなに惹きつけられた事はない。ナウシカの母としての場面はほんの一瞬で、それでもインパクトは夜の部まで残っていて、庭の主が姿を変えナウシカの心に付け込んで行く存在が、とても怖い。表情がないのがヒドラっぽくて、それでもセリフには凄みがあって、歌舞伎役者の可能性の大きさ、広さを目の当たりにしました。男と女を同時に演じられるって、凄くないですか。庭の場面は、呼吸が浅くなったもん凄すぎて。息が出来なかった。

 


・チククと子役たち
とても良かった。お芝居に熱がこもっていて、王族の末裔であると名乗る場面は特に素晴らしかった。ちゃんと吹き矢も使ってて感動した。どちらの方が演じていたかは、わからなかったのだけど、今年のサンタさんは彼にとっておきのプレゼントを用意してあげてねって思った。
チクク以外の子役たちの熱演も素晴らしかった。遠見のナウシカは、メーヴェから落ちそうになってヒヤっとしたけれど、落ち着いて自分の芝居をやり切っていた。幼少時代のナウシカの「殺さないで、連れて行かないで」が、映画通りでっていうか、子役にありがちな『言わされている感』が全くなくて、その熱演に泣いた。ちゃんと、どういう場面かを理解していて、幼いながらにも彼らは立派な役者なんだな。王蟲の精の舞踏も、プロ意識を感じられる美しさと集中力で、感動しきってしまった。
自我が確立する前の子どもを板の上に乗せて、そのあどけなさを愛でる文化に抵抗があったんだけど、彼らは既に役者なんだということがわかったのが新しい発見だった。大人たちは、彼らにどんな演技指導をしているんだろう。

 


・蟲使いとアンサンブル
蟲使いがちゃんと蟲を操って出てきたのに感動したのに、それが一瞬だけで、しかもショッカーのような使い方をされていて、ちょっと残念に思った。ユパ様とアスベルにボコボコにやられまくっていて、なんかかわいそうだった。ナウシカとの心の交流、蟲使いがなぜナウシカを女神と慕うのかを、もう少し描いて欲しかったなあと思うところです。
アンサンブルが素晴らしくて、再現度高くて、目が離せない場面があったので、いくつか。
ドルクの闘いの舞が怖すぎて夢に出そうだった。
ヒドラがまじでヒドラだった。怖すぎて夢に出て来そうなので、あまり見ないようにした。「ウオーーー!!」って雄叫び上げるから本当に怖かった。でも見ちゃう。
粘菌が怖すぎて夢に出て来そうなので、あまり見ないようにした(3回目)でも、何がどうなっているのか気になるから見ちゃう。見ても見ても不気味だった。
墓の主の精ダンサーズは、文字通り文字が襲ってくる(自分で書いていても意味がわからないんだけど、本当にそうなんですわかって)ので、おおお!?となった。歌舞伎で群舞って珍しいの?あのお衣装はどうなってるんだ、完全に”文字”だったぞ・・・

 


【再演、そして古典へ】


感想をまとめるのに、半月近く掛かってしまった。歌舞伎のことを知らないので、間違っていたり、なにか失礼なところもあるかも知れない。大丈夫かな、とドキドキしつつも、この素晴らしい体験を文章にして、ネットの腐海に放出します。


ナウシカ歌舞伎、本当に素晴らしかったので、ぜひブラッシュアップして、再演して欲しいです。和楽器の演奏も素敵だったので、サントラ出して欲しい。蟲のパペットをはじめとする舞台芸術も、1回きりの公演だけでは勿体無いので、展覧会をやってほしい。衣装の展示もお願いします!あ、小道具も!小さい王蟲を間近で見たい。宝塚大劇場の殿堂みたいなやつ〜。そして、ルサンク的なやつも出して欲しいです。脚本は載っていなくていいから、写真がいっぱい載っているやつ!通常運転と思わしき筋書が物足りなかったので(NARUTOの時はもっと盛りだくさんだった)ディレイビューイングでは、インタビューとか対談が載っているプログラムを出してください!
菊之助さんの密着番組で、息子の牛之助さんがテトのブローチを付けてて『もしかしたら、将来ナウシカをやってくれるかも知れない』って思ったよ。音羽屋の通し狂言として、この作品が受け継がれていったら、100年後には古典になるかも知れないというロマンを感じた。そしてわたしは「初演のナウシカを見た」と自慢しまくるお婆になるのだ。ふふふ。

 

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プリン美味しかったです




そして、2020年は満を辞して、歌舞伎座デビューを果たしたいと思います!

誰か連れて行って!

 

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