すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

月組日本青年館公演『ブエノスアイレスの風』

【期待】

絶賛ありちゃん(暁千星)フィーバー中なので、気合いを入れて初日から観に行くことにしました。青年館はなんと『不滅の棘』以来です。国立競技場が出来上がっててびっくりしました(オリンピックはもう終わったよ)そして、ドラマシティでも観た。観に行かずにはいられなかった。最初に後方席で全体を見て、次に超前方席でマイクオフの芝居まで見た。ありちゃんにハマれと言われているような運びでしたな(笑)
ブエノスアイレスの風』は、スカステの映像で見たことあるはずなのに、ストーリーを全く覚えていなかった。正塚先生の作品だから『暗い(光量的に)』『武器商人が出る』『突然誰かしらが発砲する』んでしょ、とか思ってましたがその通りだったので、少しは覚えていたのかもしれない(笑)
りんきら(凛城きら)の出演も嬉しかったです。既に正塚専科と化しているりんきら先生ですが、正塚作品との相性がべらぼうに良いので、楽しみにしていました。
いつも期待以上の活躍を見せてくれる、おだちん(風間柚乃)と、新人公演ヒロインで話題を攫った花妃舞音ちゃんも楽しみでした。

【所感】

もう大好きですこの作品。この暗さ(光量的に)と粋さは、生で観ないと分からなかったなと思いました。観終わった後、人間のどうにもならなさと青春の熱い風が、胸を通り抜けてゆくんですよ。まさに『光と影の狭間を吹き抜けてゆく…』とはこのこと。どうにもならない男女の心の機微。理想と友情。このほろ苦さと不思議な爽やかさが、とても粋に感じられたのです。正塚作品独特のムードとテンポも粋でした。それに独特の心地良い浮遊感がちょっぴり不穏で、この雰囲気に色気がある。月組生の緻密なお芝居があったからかも知れません。
主題歌がとても良いですよね。冒頭に春音アキちゃんが歌って、最後にありちゃんが歌うのがとてもいい。母の歌でもあり、友達を亡くした男の歌でもあり、いろんな聴き方感じ方ができるような、奥行きのある歌として聴けるのが良かったです。
わたしはダンスのことはよく分からないで見ているのですが、タンゴのコミュニケーションがお芝居で表現されているのに気が付けたのが面白かったです。最初は雑に乱暴に躍るニコラスが、徐々に相手の呼吸に合わせて躍るようになってゆくのが見られて、ありちゃんのうまさを改めて実感しました。ひとりで踊っていても最強だし、ふたりで踊っても最強なんだな。

【キャスト】

暁千星/ニコラス
この色気だよ!出てくるたびに格好いいの最大瞬間風速を更新してくるこの感じ。もう刑務所にいる時から格好いいし、刑務官に「元気でな」と見送られるニコラスの人間的魅力というか、リーダーの人格というか、もう始まって5分も経たないうちから見えてくるのがたまらないです。最初の場面で既にキャラクターが立っているんですよ。ショーでのありちゃんでキャーキャー言いがちだったのですが、この真ん中力には魅せられました。革ジャンも格好いいんだ。いや、全部格好いいんだけれども。
諦めているでもなく、燃え尽きたり、やさぐれているわけでもないニコラスの体温がめちゃくちゃセクシーで、正塚先生のセリフとよく馴染んでいた。一つ一つの所作が緻密。椅子に座る、テーブルの上で指を組む、椅子の背もたれに身を預ける。全ての男役仕草が格好良くって、こういうところに弱いわたしは、目をギラギラさせていたに違いない。
ニコラスから見た登場人物よりも、他の登場人物たちから見るニコラスに萌えました。そういう魅力があったと思う。決して右側だということではなくて。リカルドから見えるニコラス、イザベラから見えるニコラス、エバから見えるニコラス、リリアナから見えるニコラスそれぞれに映る彼の姿がどれも魅力的で。人間関係に萌える宝塚歌劇っていいよね。
ありちゃんのダンスが素晴らしいのは、ダンスがよくわかっていないわたしでも知っていることなんですが、改めて、落ち着いて(落ち着いてないけど)見ると、身体表現の不思議を感じるよ。腕を上げるだけの振りなのに、腕がぐんと伸びて見える。ジャンプした瞬間、身体が宙で止まって肢体がぐんと伸びて見える。
さて、そんな素晴らしいダンスですが、今更ながら「物語の中のダンスって、こんなに情感豊かなんだ!」と思いました。今まで何を見て来たんだ。イザベラを相手に乱暴に自分勝手に躍っていたタンゴが、徐々に息が合ってきて、魅せるタンゴになっていって、冷めた心もいつの間にか熱くなっていって、という物語が見えるのがとてもとてもよかった。同じ振りを繰り返していたので、読み取りやすかったのかも。そして、イザベラに「こんな風に女を抱くの」と言い捨てられて、あの表情ですよ!!じゅりちゃんも格好いいけれど、ありちゃんのあの表情ですよ!!
話題になったマルセーロへの暴行シーンですが、蹴る人も蹴られる人も上手すぎてめちゃくちゃ怖かった。トドメの2発が怖いんだよ。ストーカー化した元カレをボコボコにした男に「送っていくよ」と言われても、「うん」と言わないイザベラの描写も良かった。正塚先生のこういう男女の描き方は信用できる。怖いよね、一緒にいたくないよね。
ニコラスは男にも女にもモテるタイプだと思うの。着崩したギャルソン姿で、手を抜かずにお掃除しているのを見て思った。ちゃんと働いているのがいい。男から見ても色気のあるタイプなんだと思う。だから、ビセンテも執着したくなっちゃうんだろうな。ああいうタイプの男に不安にさせられるのがビセンテなんだろうよ。
あとさ、リリアナの気持ちをわかっている感じもまた、たまらないよね。子供扱いしないけど、一線引いている感じ。リリアナ目線になるとそこがせつない〜!!最後にニコラスが兄貴宣言するところは「なんて優しくて残酷なんだ!」って思ったよ。
リカルドの部屋で名刺を拾った時の「捨てることないだろ」「なあ?」の「なあ?」がとんでもなく色気に満ち溢れていて、仕草から目線からテンポから全部が格好良くって動悸がしたよ。こういう細かいところが印象のど真ん中に居座るほど、めちゃくちゃ格好いいんだ。
リカルドとの関係性は、わたしはそんなに深い読み込みは出来なかったのですが、雨に打たれて「友達が死んだ。なにもしてやれなかった」と嘆く場面が苦しくて好きです。
ニコラスは最後イザベラとくっつくのかと思っていたのですが、そうはならない正塚作品のどうにもならない人間の性を描いた世界観がお洒落で粋だなあと思いました。フィナーレの演出も良かったです。ありちゃんは誰とも組まないのが良かった。ガッツリとしたデュエットダンスが見たかった気もしますが、それは今後のお楽しみということですよね。みんながありちゃんを笑顔で囲んでいるのも良かったなあ〜。フィナーレのこの部分にめちゃくちゃ青春を感じた。

天紫珠李/イザベラ
ヒロインとはまた違ったポジションだと思うんだけれど、とても健気で、優しくて、格好いい女性でした。さっきまで泣いていたのに、オーディションに来なかったニコラスを、ギャンギャン責め立てたりしないのが良い。彼の吐露した悲しみを、黙って受け止めるのが良い。
実は今まで、じゅりちゃんをじっくり観たことがなかったのですが、お芝居がナチュラルで、ダンスがダイナミックな娘役さんだなあと思いました。フィナーレであみちゃん(彩海せら)と組んでいるのがすごく良かった!身長差のないカップルが、バリバリ踊っているのが好きです。

風間柚乃/リカルド
おださんは人生何周目なんだろうってくらいに、深い役作りをしてくるよねえ。今回も期待以上でした。ブロマンスってやり過ぎると、ちょっとうんざりしちゃうんですけど、この作品は良い塩梅になっている。リカルドから見たニコラスのことを思うと、なんともたまらない気持ちになる。
リリアナは妹だけど、実は本当の妹じゃないんじゃないか。そして、それを知っているのはリカルドだけなんじゃないか。と思いました。キュン飛び越えてギュンだった床ドンのシーンは、ちょっと気まずくて甘い雰囲気に「さすがだわ〜、うまいわ〜」と唸りました。リリアナとニコラスをくっつけようとする感じ、リリアナの恋心をおちょくっちゃう感じに、むずむずしちゃうよね!
初めて見た時は、銀行強盗が物語の山場になるんだと思いながら見ていたのですが、実際は未遂に終わり、リカルドはあっけない理由で死んでしまう。ニコラスの腕の中で。この時の、おだっちの芝居も凄かったなあ。抗えない何か、不条理、儚さ、いろんなものを感じたよ。

凛城きら/ロレンソ
格好良かった…!メガネにお髭に、あの抜け感ですよ。さすが正塚専科。きっと若い頃は、めちゃくちゃ女にモテたダンサーだったに違いない。しかも、男にもモテるタイプの。なっちゃん(夏月都)とのタンゴも素敵なんですよ。若い人たちと違って、やたらと動いたりしないタンゴなんです。

晴音アキ/フローラ
この作品で歌うのは、フローラとニコラスだけ。お芝居の始まりは、フローラの歌から。初日はさすがに緊張されていたように思えたのですが、ドラマシティで観た時は、すっかり落ち着かれていて、夕日のようなあたたかい歌唱になっていました。この歌が、この物語の全てだよね。
連行されるマルセーロに「待ってるから」と声をかけるフローラが、とても好きです。人間のどうしようもなく優しい様に触れられるので。

蓮つかさ/武器商人
れんこん出番めっちゃ少ないけど、声が良すぎて一場面のインパクトがでかい。あまりにもエエ声なので、エコー外してくれって思ったもん(笑)
ゆーゆ(結愛かれん)とのタンゴも格好良かったです。

礼華はる/ビセンテ
このゾッとするような男がめちゃくちゃ良くって、ぱる君てお芝居めちゃくちゃ上手いんだなって思った。一見真面目で、正義感に溢れていて、背が高くて、イケメンなんですけど、よくよく考えたらモラハラ
匂いしかしないよ、この男。結婚したら妻に仕事を辞めさせるのが当然だと思っているし、ミルクティーを差し出されてお礼も言わずに飲んじゃうし、トドメが「君を手元に置いておきたい」だからね!エバ逃げて!!って思った。それでも、エバビセンテと結婚しちゃうんだろうなあと思うのがこの物語の、どうしようもなくて愛おしいところ。こういうキャラクターが出来て、しかも後味がざらりとした芝居が出来るって、ぱる君は本当にすごい。

彩海せら/マルセーロ
なんか既視感のあるお役で笑っちゃったんですけれど(CH)月組デビューのあみちゃん。蹴られるのめちゃくちゃ上手いし、お芝居には安定感があるし、笑いも取ってるしで、月組の緻密なお芝居の中でしっかり存在していた。次回は是非、新しい顔のあみちゃんが見てみたいです。

羽音みか/エバ
お名前を存じ上げなかったのですが、ちょっと硬質なお芝居が印象的な娘役さんでした。その硬質さが、正塚作品の中の女性って感じで良かったです。リカルドのお葬式の場面での佇まいが印象的でした。

花妃舞音/リリアナ
『ロマ劇』の新人公演で話題になっていた舞音ちゃん。線の細さと、台詞回しと、テンポが、めちゃくちゃ正塚作品とマッチしていて、本当に本当に素晴らしかった!セリフのいじらしさにキュンとしたし、リカルドの死を悟った場面では泣かされた。あそこの、ニコラスのバックハグやばいよねえ!体を小さくして嘆くリリアナにもキュンとする。ニコラスに兄貴宣言された時のリリアナの表情も切なくて、舞音ちゃんにはたくさんキュンとしちゃったよ。もっといろんな役が見てみたいです。

【奈良観光】

ドラマシティでマチネを見てから、弾丸で奈良観光をしてきました。梅田から1時間かけて薬師寺へ行き、1時間かけて京都まで行き、そこから新幹線で帰りました。移動距離半端ない(笑)
いつもは人の心を忘れたようなハードスケジュールで観劇していますが、たまには文化教養要素を取り入れた遠征もいいな、と思うのでした。めっちゃ弾丸だったけど、付き合ってくれたお友だちありがとう。