すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

宙組大劇場公演『天は赤い河のほとり』

【原作にまつわるいくつかの思い出】

「これ、小柳美穂子先生の好きそうなやつー!」
現代の普通の女の子が古代オリエントにタイムスリップして、その先でいろんな王子からモテモテになって、なんか色々あって、王太后になる話だ!小柳先生が好きそうなやつ!得意そうなやつ!そして、宝塚に合いそうなやつ!
お話の大筋の流れは知っていたのです。学生時代に天河が好きな友だちが居て、授業中に読んだり、その子の家で読んだりしてました。しかし、ハマらなかった。ユーリがなかなかカイルに抱かれないので途中で飽きた。なんともゲスな女子高生である。オトナの女性(ネフェルティティやナキア)が、やたらと意地悪でヒステリックな描かれ方をされているのも、なんかちょっと気に入らなかった。そういう女が居ても良いけれど、ひとりくらいはユーリの味方をしてくれたり、憧れられるオトナの女性が居てくれたら、当時のわたしも楽しく読めたのかもなぁ。まだまだそういう時代だったのかも知れませんが。
そんなこんなで、原作に対する個人的なイメージは微妙でした。配役発表で、贔屓の女役に衝撃を受け、ナイスなタイミングで(?)胃腸炎になったので、出勤停止のうちに、TSUTAYAで全巻借りて読み直しました(まじめに療養しろよ)
あああああー!!ルサファーーー!!なエピソードに(ネタバレを回避するとこう表現せざるを得ない)、最後の儀式に向かう展開のワクワク感に、当時は見出せずにいた作品の魅力が面白かったです!どんな作品になるんだろう!この長いお話を、どうやって約1時間半にまとめるんだろう!
期待は膨らむばかり。

【8K】

席は舞台から近けりゃ良いってもんじゃないな、と思っていた矢先のSS席(笑)この日はNHKのカメラが入ってました。なんと8Kカメラだそうです(そもそもKっていうのは何かの単位なの?K=Kireiっていう単位なの?)砲台みたいなカメラに布を被せて、テントみたいだった。舞台上の組子も張り切っているのを感じました。わたしも8Kの客にならなければ。無駄にリップを塗り直したおもいでを記しておきましょう(キックリ)どうか映り込んでいませんように…。

【超わががままな所感】

音楽はファイナルファンタジーキングダムハーツ下村陽子先生。遂にスクエニの遺伝子と宝塚歌劇が手を組んだのである。オタク的に胸熱な展開。
アニメのOPを観てるようなプロローグのわちゃわちゃ感が楽しい!!主題歌の2000年代アニメ感!!階段が多いセット、プロローグでみんなの大好きなキャラクターたちを一気に見せて来る感じが、2.5次元ミュージカルらしく、こちらの期待感を煽ってくれます。
細かいこというと、この作品はあくまでも宝塚歌劇なのであって、2.5次元ミュージカルではないと思っています。その点については、後述します。

カイル皇子がとにかくデカい!!※褒めてます。
そもそも、ゆりかちゃん(真風涼帆)のことは、『お化粧した男のひと☆』というドリームを含めた(誤)認識をしているのですが、やっぱり男のひとだった…。強そう。まどかちゃん(星風まどか)との身長差というよりは、体格差に萌える。
一番びっくりしたのは、ラムセス将軍のキキちゃん(芹香斗亜)との殴り合い。花道から取っ組み合ってもつれ込んで来るんだけど、その時の振動に驚いた。客席が微かに揺れた。『これが流行りの体感型4Dか…』と思った。大迫力の膝蹴りを目の前で見ました。ふたりとも強そう。8Kに相応しいお芝居に圧倒された。
まどかちゃんの少女漫画ヒロイン感は、ユーリそのもので、天河の宝塚化は、まどかちゃんがトップ娘役になるまで温められていたのでは!?と思うほど。宝塚の客層が感情移入しずらいキャラクター設定なのに、ずっと真ん中で輝いている存在感はさすがだよね!初の生え抜きトップ娘役、おめでとうございます!!
ラムセス将軍めっちゃ格好いい。いやまじで格好いい。♪嫁に来ないかソングがすごく爽やかで、楽しくて、その上キキちゃんの歌がすごく上手いので『もうエジプトに嫁いだらいいじゃん』と思ってしまうほど!しかもエジプト楽しそうだし。

これは完全に持論なんですけれど、宝塚歌劇2.5次元ミュージカルとの違いは、役者の個性がはっきりと透けて見えるか見えないか。だと思っています。例えば銀河英雄伝説@TAKARAZUKAにおけるオーベルシュタイン(マントプレイの場面)。『原作上のキャラクターが絶対にやらないであろう演出を、生徒の個性にあわせて創り出し、解釈違いを起こさずに成立させる』 ところが、宝塚歌劇2.5次元ならではの特色であると思っています。異論は大いに認める。持論っていうか、個人的に期待してるところの違いっていうか。
宙組の天河にはそのような演出がなかったのが残念です。観たいのは『真風涼帆のカイル』『星風まどかのユーリ』『芹香斗亜のラムセス』…なのです。特にトップコンビの個性が感じられる演出がもっと欲しかった。それに、この作品は新生宙組のお披露目公演なのだから、もっとふたりを引き立てるエピソードだけに集中させて欲しかった。全女子に対してギラギラしてセクシーなカイル皇子や、銀橋でひとりしっとりと歌を聴かせるユーリに会いたかった。
そして、2.5次元ミュージカル最大の禁忌は『観客とのキャラクターの解釈違いを起こすこと』である。というのが、わたしの持論です。2.5次元化だけでなく、漫画のアニメ化や実写映画化では、最大限に配慮されるべき点なのです。
例えばマッティワザとウルヒ。マッティワザが額飾りをユーリに託す理由が意味不明だし、いきなりヒッタイトの仲間になっているのも不自然です。彼の持っているドラマを省略しすぎて、悪役なのか良い人なのか、よくわかんない謎の人のまま終わってしまいます。愛ちゃん(愛月ひかる)があんなに格好良く、悪者っぽい自己紹介ソングを歌ってくれてるのに。ウルヒは、ナキアに「泉を埋めろ」と命じられても、狼狽えたり、神の怒りを買うことを恐れたりするような人物ではない。マギーさん(星条海斗)が抑えた芝居でそのキャラクターを表現してくれているのに。
シナリオ的な不満は、以上の2点。大作をスーパーダイジェストで力技で1時間半にまとめるっていうのが無茶なことなんだから、その点はまあ、仕方ないのかな(ていうか、原作者が上演期間中に「仕方ない」と発言してしまうのは些か受け入れ難いことである。わたしは観る前にそのtweetを読んだので「なんだ、仕方がないものを見せられるのか」とがっかりしてしまった。そういう意図はなかったのだと思うけれど、そういう受け取り方をするわたしみたいな捻くれた人もいるので、大千秋楽まで控えて欲しかった)
小柳先生はこの辺りを手堅くまとめてくれると期待していたのに、どうしてこうなった/(^o^)\この物語を最後まで描く必要があったのかな?真ん中のラブストーリーが一番盛り上がるところを省いてまで、ナキアやネフェルティティのエピソードを描いてしまったことで、トップコンビのロマンスが薄くなってない?贔屓が絡んだエピソードが目立っていて嬉しかったけど、それじゃダメなんだよ〜(わがまま)
モヤるところが多過ぎて、小柳先生のオリジナル作品で、まかまどが観たかったなあと思ってしまう始末。『めぐり会いは再び3rd』とか面白そうじゃん…。

【未体験ゾーン】

それでも楽しめちゃうのがヅカヲタのしぶとくて楽しくてチョロいところ。
贔屓のガチの女役っていうのは、今までのヅカヲタ人生では初めてのことなのです!ともちん(悠未ひろ)には、ガチの女役(ショーでの出オチ的な女役はあったけれども!こういう起用のされ方ってほんと癪!)がまわってこなかったし、あっきー(澄輝さやと)は今まで女役にご縁がなかった。そんなわけで、未体験ゾーンなのです。
おそらくキックリかイルバーニを演るんだろうなと思って、集合日の配役発表を待っていました。一日中公式サイトを死ぬほどリロードしてた。発表された時の衝撃は忘れられない(笑)
え?ネフェルティティってあのネフェルティティ??ほんと??え??ネフェルティティ??おう、ネフェルティティか。まじか。で??お、おんなやく…??
我が目を疑いましたがしかし、何度サイトを確認しても『ネフェルティティ』って書いてある。
贔屓が悪役を熱望しているのを知っていましたし、わたしもその日が来るのを待っていたのですが、まさか初めての悪役が女役だとは。しかも、あんなに嫌がっていた女役だとは…!!
絶対に美しいという確信は持っていましたが、ヒェー!!と思いました。女役なんて嫌だなとか、男役姿が見られないのか〜、っていうヒェー!!ではなく、ただ単純に驚いた。当事者であるご本人は、もっと驚いたでしょうと思ったので、居ても立っても居られない!励まさなくちゃ!応援しなくちゃ!期待してますよって伝えなくちゃ!という気持ちでお手紙を書きました。
贔屓が演じるキャラクターだと思って、改めて原作を読み直してみると、ネフェルティティという役に期待されるところがなんとなくわかってきます。名前もしょっちゅう出てくるし、お話の中心に存在しているのに、なかなか表に出てこない感じが、いかにも黒幕っぽくてよい。その存在感と威圧感を求めて、小柳先生はあっきーにネフェルティティをあてたのではないでしょうか。
とにかく、どんな役作りをされるんだろう。と、想像を膨らませて楽しみにしていました。
ネフェルティティは、本当に格好よかった。特に、「ラムセス将軍」と彼に呼びかけるところの冷たく、皮肉を込めた笑みに、彼女の一生が垣間見えた気がします。生きるために、生き抜くために、強く気高く生きてきた女の一生を、限られた時間で鮮やかに魅せてくれた。最後の歌に、うるうるしてしまった。本当に、澄輝さんの歌唱は、劇場の空気の色を、濃淡を操っているようで、引き込まれる。原作の天河では、少女(ユーリ)の敵として描かれている大人の女(ネフェルティティ)ですが、宙組版では一番身近なドラマを背負った女として存在していて、感激しました。かわいそうで悪いオンナだけれど、最後まで下を向くことなく女王の矜持を保って運命を受け入れた、強く気高く美しい生き様に、憧れます。あっきーは、女役を演じていても格好よかった!
ネフェルティティさまの6人の娘は、どんなお姫さまなのかなぁと、想像してみる。きっと厳しいお母さまなのでしょうね。ひとりくらい母親に反発して、平民の恋人と駆け落ちをした子がいて欲しいな(笑)「勘当じゃ!」と言いつつも、こっそり援助していそう…。
贔屓の女役姿に、ヒェー!!とも、うひゃー!!ならなかったのはちょっと意外でした。男であろうが女であろうが、贔屓はわたしにとって、いつも格好いい存在でいてくれるんだなあと思いました(盲目)
はじめての女役にまつわるエピソードも小出しにされてきて、それを耳にする度に萌え焦げてしまいそうになるのも、贔屓の女役沼の醍醐味なんだなと痛感しております。『バレンタイン事件』はきっと今日も現在進行形で展開されているのでしょう。その辺は愛ちゃん様よろしくお願いします!と拝み倒したいと思います(笑)ところで、愛ちゃん様の男役ライフプランには、『いつか男役が演じる女役の相手役になる』っていう目標が設定されていたりしないのかな。そうだったら胸熱すぎる。もう気軽に『愛ちゃん』だなんて呼べないよね。これからは『愛ちゃん様』って呼ぶわ。


【注文の多い客】
毒にも薬にもならない事をつらつらと申し上げましたが、東京でもこの作品を楽しむ準備を万全に整えて、さわやかな初夏の季節を迎えたいと思います!原作ファンのリアルタイム世代である組子たちが、このシナリオをどのように埋めてくるかも楽しみ。そして、贔屓の女役沼がさらに深まる事を期待して、覚悟を決めたいと思います(?)