すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

博多座『新・三国志』

【期待】
昨年3月の歌舞伎座版『新・三国志』を見て「これは歌舞伎のベルばらだ。ヅカオタはみんな見るべきだ」と大騒ぎしていたら、兵庫の大劇場で月組を見ていたお友だちも駆けつけてくれて、一緒に見てくれました。昨年、歌舞伎座を一緒に見たお友だちと、福岡在住のお友だちと総見のような観劇をすることができて楽しかったです。本当に良いもの、面白いものは、人に勧めたくなる。
舞台オタクはみんな博多座が大好き(主語がでかい)なので、再演の発表と同時に遠征を決めました。大好きな博多座で、歌舞伎座版よりスケールアップした『新・三国志』です。歌舞伎には珍しく、キャストもほとんど同じ。見ないわけにはいかない。
成長著しい團子くんの本水の大立ち廻りも楽しみのひとつでした。歌舞伎座版では、印象深い独白で魅せてくれましたが、博多座版ではどうなるのでしょう。猿之助さんの宙乗りも楽しみで、歌舞伎座を桃色に染めた景色は、博多座ではどうなるんだろうと楽しみでした。
遠征前日に胃腸炎になって熱発し、前日の『刀剣乱舞』観劇を諦め、絶食の末、気合いでなんとか持ち直して飛行機に乗りましたが、文字通り『這ってでも』行った遠征になりました。博多のおいしいものがほとんど食べられなかった(パンとうどんは食べた)のは、食いしん坊としての悔いは残りますが、演目は楽しく、美しく、格好良く、面白い、良き遠征となりました。


【全体像】
そもそもマッチョな『三国志』を、上品なロマンスに仕上げたセンスが素晴らしい。その上、軟派なところが一切無い。「実は劉備は女性でした」という設定で、逆ハーレムものになったり、爆モテ展開になったりしないのが硬派でお上品で良い。みんな劉備のことが好きなんだけど、その好きが、いわゆる直線の矢印のラブではなくて、リスペクトベースのラブなんですよね。爆モテ逆ハードリームを持っている訳ではなく、ひとりの男と思いを重ね、尊重される人物でありたいという人のドリームを叶えてくれた。え?夢見る力ってこういうこと??(笑)
特別、関羽がスパダリでもないところが好き。婚礼の衣装を前にして、劉備に「着たいであろう」という台詞にちょっと違和感があったのだけど、それを『これを着た玉蘭(=劉備)が見たい』という気持ちの表れと解釈したら、とんでもなく萌えた。この奥ゆかしいロマンスが漂っているのが、もう萌えて萌えて仕方が無いのである。ヅカオタはみんな(主語がでかい)こういうの大好きでしょ!?
その後の、ふたりが手を握り合う場面が、めちゃくちゃめちゃくちゃ大好きなんです!!この慎ましさいじらしさにときめける感性を持っていて幸せです。袖で、握り合った手があまり見えないところが萌えるんですよ。ふたりにしか見えない未来がこちら側にあるようで、結末を知っていると泣ける。萌えるし泣けるしで大忙し。
歌舞伎座版に比べると、展開がややスローで(でも古典に比べたらかなりスピーディです)お話がわかりやすかったです。行間や余白もあって、それぞれのキャラクターが立っていたように思います。
結末が歌舞伎座版と違っていたのも面白かったです。最後、劉備は戦いに出ずに終わったのが歌舞伎座版で(だから、あの尊いバックハグを見ることが出来なくて残念だったけど、更なる萌えがあった)劉備が戦いに出るところまで描いて終わるのが博多座版。「バスティーユじゃん!!」って思ったよね。客席側を敵に見立てた演出が、ベルばらのオマージュだと思いました。
そこから、本水の場面に進むまでの展開がとてもスムーズで感心しました。だって、歌舞伎ってなんか、「役者が水に濡れたら格好良いから、ここから先に滝があることにしますね!」っていう乱暴な展開がお約束のあるあるじゃん(暴言)関羽の魂が雨を降らせて、それがめっちゃ豪雨で、関平はその中で戦いますっていう整合性。ここの團子くんの大立ち廻りが素晴らしかったのは後述しますが、花道での独白も素晴らしかった。歌舞伎座版では、この大立ち廻りなく、やや唐突に長台詞に入るので「感情の持って行き方が難しそうだな」と思いましたが、うまくテンションが乗っていて、感じ方が全然違いました。こっちの方が好き。
順番がめちゃくちゃになるけど、船がまじで燃えてましたよね?本当にファイヤーで焦りました。カリブの海賊かと思った。
そして、ラストがお迎えエンドなのが博多座版です。ベルばらオスアン編みたいだね。負傷した劉備を、関羽の魂が迎えに来るのですが、ここのふたりの拵えが、シミラールックで、白くて、婚礼の衣装みたいでめっちゃ泣けるの!関羽の肩に頬を寄せる玉蘭がいじらしすぎて、爆萌えだった。しかも、関羽は抱き寄せた玉蘭の肩を、ずっとやさしくトントンしてるんですよう!!尊すぎてオペラグラスがガタガタ震えてた記憶しか残ってない。病み上がりなのに、そのまま中州の川に飛び込みたくなるくらい萌えた。
歌舞伎って、ここまで丁寧にラブロマンスを描くことが滅多にないので、『新・三国志』はなかなか珍しい歌舞伎なんじゃないかなと思います。それに、男だらけの座組で、この繊細さが出せるのは本当に凄い(男性に対して意地悪な言い方でごめんなさい)

わたしが同じ演目を3回も見るということは、つまり期待を上回る面白さがあったということです。キャラクタ-が本当に魅力的。原作は、小学生のころに読んだ漫画の、うすぼんやりとした知識しかないので、ほとんど知らないに等しい。でもさ、マッチョな『三国志』を期待して、この作品を見た人は、どんな風に思うんだろうねえ。
それでは、印象に残ったキャストのことを。

関羽/猿之助
歌舞伎座で見たときより、父、養父としての存在感が大きかったように思う。これはわたしが、物語の展開を知っているから、お芝居の読み込みが深くなっただけなのかもしれなくて、歌舞伎座と比べてどうってことはないのかもしれない(歯切れが悪い)團子くんのお芝居が変わったからなのかも知れませんが。
戦に出る前の、修学旅行の男子部屋みたいなシーンがやっぱり好きで、あそこで玉蘭への想いを語る劉備、「もしや?」という顔をする関平、の流れに気が付くことが出来て、この親子の尊さに目覚めました。
最後のパレード(あれはエピローグというの?)の大トリ、からの斜め宙乗り、は本当に美しかった!!博多座の天井の隙間から、桃の花吹雪がどしゃどしゃ振ってきて、鳥屋の脇ではバズーカ砲みたいなので花吹雪をまき散らしていて「博多座ってこんなことになるんだ!!」と感激しまくりました。珍しく座った一等席が、本当に見やすくて良いお席で、猿之助さんが真上を通ってくれて、テンション高く手を振れて、めっちゃギャルい靴まで凝視できてしあわせでした。お芝居はハッピーエンドではないけれど、演目の終わり方が派手なのが良いよね。

劉備/笑也
笑也さんはどうして男装の麗人の声が出せるの。女の人が男の人の声をまねて、トーンを下げて喋っている声が、らしくて素晴らしいの。男の人がこういう声を出せるんですねえ。女方ってすごいですねえ。
玉蘭として台詞を喋っている時間が必要最低限なのも良い。アンドレの前でぶりぶりし出すタイプのオスカルが苦手なので、そういうところがないのが良い。
香溪と並んだ時、手を取って歩くときの、男役っぽいエスコートもツボです。

張飛/猿弥
ここは歌舞伎座版とはキャストが違って(歌舞伎座では中車)猿弥さんらしさがたっぷりの張飛で魅せてくれた。マッチョなタイプのこの張飛が、玉蘭の意見に耳を傾けた。っていうエピソードが、悔しいけど夢夢しくて良いよね。実際に、今の日本にこんな男いる??

諸葛孔明/青虎
青虎さんのことを「顔がかわいいから、なにをやっても許される」と認識しているわたくしですが、めちゃくちゃ賢そうで、孔明としての説得力があった。最初、襲名祝いの台詞に気が付けなくて拍手が入れられなくて残念だったけど、二回目からは入れたよ。諸葛孔明は、策士のイメージがありますが、青虎さんの孔明は、温情に厚い人の印象がありました。

関平/團子
MVPだったでしょう確実に。役者として身も心も成長期!の團子くん。青年の持つエネルギーを全部ぶつけてきました!どうだ!って感じでした。なんといっても、本水での立ち回りですよ。大滝が現れる前に『がんばれ!!』と熱く拍手するのも気持ちが良かったです。背が高いから、上体を反ってからの見得が決まる決まる。格好良いのなんのって。憧れていた役への想いも感じました。気合いが半端ない。思いっきりキザる。終盤花道でバシッと決まったときに「五代目!!」と大向こうが入るのが、めちゃくちゃ格好良かった。将来「五代目の関平の大立ち回りはね・・・」と語れるレベルの場面だった。
修学旅行の男子部屋の場面で、関平が「ミン殿が好き」と告白する時、後ろに座っていた兵士達が小芝居をしているのに気が付きました。『なんだ?俺のミンに!』みたいな感じで立ち上がる兵士、あれよあれよと関平とミンの縁談が決まっていくのに、意気消沈する兵士。ずっと後ろを向いて、お酒を飲んでいる兵士。古典演目では、お弟子さん達のお芝居を観る機会はほとんどなく、いつもじっと立っているか座っているかなので、小芝居を見る機会があって嬉しかったです。

曹操/浅野和之
すっかり「じさま」呼びが定着してしまった浅野さん。歌舞伎座版と大きく違った印象はありませんでしたが、格好良かったです。せりふが、ややゆったりしたような気はする。
パレードで、横に座っていたお友だちが「やだ!格好良い!」と声を漏らしていた思い出(笑)

司馬懿/笑三郎
笑三郎さんの立役って、どうしてこんなにセクシーなんでしょう。いや、女方の時も色っぽいですが。そして、悪い役が似合う。出てくる度にオペラグラスが吸い寄せられました。

孫権/福之助
平成中村座で曽我五郎をみてから、すっかり大好きになっちゃった福之助くん。歌舞伎座孫権も格好良くて、続投が嬉しかったです。動きが少ないながらも、目のお芝居が繊細で、立っているだけでも「この男はいろんな策略で脳を動かしているんだろうな」と思えるような存在感だった。コスチュームの扱いも格好良かったですね。立役にマントってなかなか見られないので、後ろ姿フェチのわたしはウハウハしてしまった。
妹からの命がけの訴えを、自分の都合の良い理解におさめてしまう、愚かさも良かった。「そうじゃないんだよ~!」とこちらの気持ちをやるせなくさせるのが良かった。
福之助くんを見ていていつも思うのですが、『研17みたいなお芝居をしていて、実は研5』みたいな芸風が、大変わたし好みです(ヅカヲタにしか通じないたとえ)

香溪/新悟
歌舞伎座から役者がかわって(歌舞伎座では尾上右近)印象がかわって、すごく面白かった。新悟さんの香溪は、とてもとても頭が切れる賢い香溪に見えました。武術より学問、ていう感じ。男勝りという印象ではなかったかな。だからこそ、劉備の秘密に振れた後の、やわらかな表情が印象的でした。
女四天王かわいいよね~!!すこやかな明るさに元気が出る。後半出てこなくなっちゃうのが寂しかったです。もう少しエピソードを見せて、と欲を言いたくなるかわいさでした。


【こういうのもある】
わたしのフォロワーさんやお友だちは、宝塚ファンが多いので、歌舞伎の記事を上げても、何が何だかさっぱりわからないと思うのですが、「いろんなのやってるんだな」「なんだか楽しそうだな」と思っていただければ幸いです。
次に記事を書くとしたら、明治座の奮闘公演ですかね!植田神爾先生作、猿之助さん演出の歌舞伎ですよ!

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