すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

歌舞伎座『八月花形歌舞伎』-連獅子〜与話情浮名横櫛-

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二部、三部も観たかったな

【2020年の目標】

昨年、『風の谷のナウシカ』を観て「歌舞伎おっもしろーーーい!」っていうテンションで書き綴ったブログの締めの言葉は『2020年は満を辞して、歌舞伎座デビューを果たしたいと思います!』だったのですけれども。
karashi-channnel.hatenablog.com
このコロナ渦、明治座や赤坂ACTで上演予定だった演目も、張り切ってチケットを取っていたのに、昔の偉いおじさん(福沢諭吉っていうよ)の書かれた紙に変わってしまった。何度も返金のためにコンビニに行っていたものだから、遂にセブンイレブンのレジの女の子に「しんどいですよね…。私もディズニーのチケット払い戻ししたんです…。」と声をかけられてしまう始末。きっと、毎度ものすごい顔をしてお金を受け取っていたのではなかろうか。「ほんと、まじつらいよね。これの為に働いてんのにね」と三十路の本音をポロリしてしまったのであった。
8月1日から歌舞伎座再開!のニュースを耳にして、Twitterで劇場の感染対策レポを見たりして、ネットでするりと切符を買って、いざ歌舞伎座デビューと相成りました。


歌舞伎座デビュー】

わたしは宝塚ヲタクなので、東銀座はしょっちゅう、というか、毎週同じ店に居たりするくらいには馴染みがあるんですけど、歌舞伎座はいつも早足で通り過ぎるだけの、端から見たら豪華なお城みたいな劇場でした。子供の頃からなんとなく『大人になったら歌舞伎を見るんだ』と薄ぼんやり夢を描いていました。『都会で働いて、美味しいものを食べて、金曜日の夜にはおしゃれな映画館で映画を見て、週末は宝塚や歌舞伎を見る』のが憧れの大人の女像だった時期があります。いかにもバブル世代の親を持つ子が抱く大人像って感じ。
というわけで、いい年したおとななのに、はじめての歌舞伎座にウッキウキでした。
ネットでチケットを買ったので、地下の発券機でドキドキしながら発券。今回は歌舞伎座の地下の楽しそうなお店には寄りませんでした。直行直帰でした。またゆっくり伺いたいです。
市松模様の切符を握って、エスカレーターにて地上へとのぼる。かぶきにゃんたろう可愛い。
自分で半券をもぎり、手指を消毒してから検温機へ。何度やってもエラーになるので涙目になってたら、係のおじさんが非接触式の体温計で測ってくれた。おじさん曰く、「前髪のせいかな?」とのこと。東宝のやつは大丈夫だったんだけど、前髪厚いとダメなやつもあるんだねえ(2度目は前髪を全部あげて、でこっぱちで挑みました笑)
劇場に一歩立ち入ると、澄んだ空気とその匂い、明るさ、近頃目に映ることのなかった奥ゆかしい和の色たち。初めての歌舞伎座にテンアゲでキョロキョロしまくりました。スマホでばしゃばしゃ写真を撮りたかったけれど、ロビーはとても静かでしたし、他に写真を撮っているような人もいなかったし、劇場スタッフさんの視線も感じたので(もちろん嫌な視線ではなく、おもてなしの視線です)恥ずかしくって出来ませんでした。もうちょっとはしゃぎたかった…。
改札のすぐには、山積みにされた筋書が。自分で取って行って下さいねスタイルでした。今回は筋書の販売はありませんでした。ちょっとさみしい。つくりは宝塚の新人公演のプログラムみたいな感じでした。
ロビーも客席も静かでした。開演まで時間があったので、ロビーを散策しようと思ってうろうろしていたら、スタッフさんに声を掛けられてしまい、恥ずかしかったので、おとなしくお席に座って幕が上がるのを待ちました。初めてだから、いろいろ見て回りたかったんだよぉ…。でも、恥ずかしくて言えませんでした。劇場的にも、不必要に動き回って欲しくなかったのかも知れませんし、ただ単にわたしの挙動が怪しかったのかも知れません。まあ、売店もやってないしね。


【連獅子】

この演目を選んだのは、『初めて歌舞伎座で見た演目が”連獅子"だって言ったら、なんかミーハーな感じがしていいかな』と思ったのと、『派手で景気が良さそうで、おめでたい感じがしていいかな』と思ったからです。あとは、単純に午前公演だと電車も街も空いていて安心だからです。

連獅子をフルサイズで観たのは初めてでした。そもそも古典歌舞伎を観るのも初めてで。お正月にNHKで流れているものを見たり、学生時代に資料として見たくらいなので、毛振りのところだけ…みたいな感じだったんですよね。舞台転換が成されてゆく様が見られたり、『ここには何か意味があるのだろうか』と想像したりしながら見られるのが楽しかったです。生の舞台ならではですよね。
登場人物は二人だけだと思っていたので、お坊さん同士のお経バトルが面白かったです。完全にヅカヲタとして認識している中村橋之助さんが観られたのも嬉しかったです!開演アナウンスも橋之助さんでした(これってランダムだったのでしょうか?)『ご贔屓の珠城りょう様に会えなくても頑張っていらっしゃる!』という謎の仲間意識で見てしまった。
宝塚ではオケが全て録音で、生の楽器に飢えていたので、連獅子を選んで正解だったと思う!後半の三味線が激しめで、派手な音楽が聴きたい!という欲が満たされましたね。
後見の人が、黒いマスクみたいなものと、透明のフェイスシールドをしていたんだけど、忍者感があって楽しかったです。鼓や三味線の方たちも黒いマスクをしていて、ずらりと並んでいるので、悪の組織みたいで格好良かったです(発想が厨二)
片岡愛之助さんの、視線を受け取って、「劇場のひとりひとりにお届けします!」といったお気持ちを感じて胸が熱くなりました。これこそが、生の舞台の醍醐味だなあと、しみじみ感じました。


【与話情浮名横櫛-源氏店-】

歌舞伎って演目の読み方難しくない?なぜなのか。読めない。昔のタイトルをそのまま使っているからだと思うんですけど。そのままで良いのですが、素人には難しいですな。
この演目を選んだのは、単にスケジュールが合ったからです。先に連獅子を見て『他にも観たいな』と思ったのと、わたしは時代物や舞踏劇より、世話物が好きな気がしていた(お友達から映像をいろいろと頂いて、お勉強中です)からです。

♪死んだはずだよお富さん 生きていたとは お釈迦様でも 知らぬ仏のお富さん〜
♪えいさお〜 げんや〜だな〜(春日八郎『お富さん』)

っていう歌の元ネタだったって、見ている途中で気が付いたわ!!げんやだなって読めなかったよ源氏店!!笑笑
お富さん(中村児太郎)がえっっらい色っぽくって、特に団扇で扇ぐ仕草にヤラレました。はあ、そりゃあ藤八さん(片岡亀蔵)もなんとしてでも近付きたいと思うわ。おそらく、本来なら「化粧に興味があるんです」と言って近付こうとする藤八に、お富さんが呆れながら白粉を塗ったり、紅を差してやったりする場面なのでしょう。今回はお富さんが「このご時世ですから、距離が…」とこれまた艶っぽく藤八をあしらい、ソーシャルディスタンスを促し、「自分でやんなさいな」と白粉を自分で塗らせていました(笑)紅筆も、50センチくらいの伸びる棒で、お富さんが距離を保って藤八に紅を塗ってやる場面には、笑い声がサワサワと漂っていました。令和2年の夏ならではの演出で、この困難を面白おかしく取り上げる歌舞伎のウィットさに触れられて嬉しかったです。
そして切られ与三郎の松本幸四郎さん、発光してた…。光ってた。今回は大向こう等の掛け声が禁止なので、バッキバキにキメていても屋号が飛ぶ事なく、ひたすらに拍手だったのがちょっと面白かったです。おそらく常連の方が、拍手を切ってくださるので、なんか宝塚みたいだなって思ったり。『みんな心の中で”高麗屋!!"って叫んだり、頭の中で響いていたりするんだろうなあ』と感じつつ。そういう意味では客席に一体感があったように感じました。
蝙蝠の安五郎(坂東彌十郎)には江戸のおっさんの風を感じ(歌舞伎ではこういう江戸っ子の風情があって、ろくでなし感があるおっさんがめちゃくちゃ好きです)、多左衛門(市川中車)の抑えた芝居に感心した。中車さんの歌舞伎でのお芝居ははじめて見ました。半沢直樹でのイメージが色濃い中車さんですが、一歩引いた物静かなお役が素敵でした。でも、実はお兄さんだったという展開にはちょっと付いて行けなかった…。どういうことなの。
最後、与三郎とお富さんが、再会をよろこび寄り添う…っていう場面があるんだけど、そこでもソーシャルディスタンスがオチとして使われていて、アッと驚き笑いました。こちらはなかなかに粋でしたので、ぜひ「歌舞伎オンデマンド」でご覧ください。収録された日の演出と、わたしが見たものが同じではないかも知れないけれど。視聴料がちょっとお高めだけど。
帰り道の足取りの軽さ、劇場の外で「演出が変わった!」とお話に花を咲かせるフアン(ちゃんと距離をとってお話されていました)を見かけて、心が浮かれているのを感じました。東銀座から、有楽町へ歩く夜の道も、久しぶりで嬉しかった。
そういえば『おとなになったら、松本幸四郎さんを観に歌舞伎座へ行く』という夢が叶った夜でした。素敵な声だったなぁ。粋だったなぁ。わたしにはこういう小さな夢がたくさんあります。最近やっと、少しずつ叶えられるようになって参りました。


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大きすぎて上手に撮れない

【また来月】

感染対策がしっかりされていて、歌舞伎座は夕方の混み合ったスーパーより、よっぽど安全である。ということがわかったので、来月も見に行くことにしました。換気のために、1階席の扉、桟敷席の扉は上演中も開いたままにしているそうです(今回は3階席でしたので、気が付かず)上演中、救急車の音が聞こえて『え、働きすぎて遂に幻聴が…?』とビビったんですけど、そういうことだったのね安心した。

いつの日か、たくさんの掛け声が飛び交い、賑やかな歌舞伎座で、たい焼きが食べたいです!