すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

雪組東京宝塚劇場『ONCE UPON A TIME IN AMERICA』

【エンターテイメントに灯をともせ】

今、生きているこの瞬間が、時代の、世界の最先端なはずなのに、こんな世の中になってしまうとは。不安と緊張が漂う世界で、こんなにも寂しくひもじい気持ちになってしまうとは。我ながら己の精神の脆さにうんざりしてしまう。遥か昔の言葉だと思っていた『欲しがりません勝つまでは』が、なんとなく世間を漂う。自粛とは。自分から進んで自分の言動を慎むこと、それを国家が命じる?わたしはどの時代に生きているのだ。
宝塚歌劇が公演を再開した。わたしが観劇した翌日に、再休演が発表された。
言いたい事、感じたことは山ほどある。山ほどあるんだけど、この公演を語る上で、これらの出来事を語らざる得ないのが最も悔しい。わたしはもっと、ちゃんと純粋に観劇を楽しみたかった。
エンターテイメントに灯をともせ。娯楽や芸術、エンターテイメントは、人間が健やかに生きる為に絶対不可欠なものです。そしてそれらは、誰かにとっての生業なのであって、対価なく提供されることを美徳とするこの潮流には乗らずにいたいです。貧しさこそが敵。自分の感性を守れる程度には、稼げる存在でいられるように、努力したいです。


【期待】

ONCE UPON A TIME IN AMERICA(以下ワンス)の映画は観たことがなく、ロバート・デ・ニーロが主演のギャング映画ということしか知りませんでしたが、だいもん(望海風斗)がギャングって、ぴったり過ぎるなと。トップスターになると白くて清い役ばかりになってしまうので、トップになってもワルが出来るだいもんの個性って素晴らしいなと、改めて思いました。
ポスターのビジュアルにもワクワクした。大人数のポスターって素敵だよね。いや、トップコンビだけのポスターも素敵なんだけど、ワンスのような原作が映画で、すでにイメージが仕上がっている作品に関しては、このようなポスターが街に貼られていると、とてもお洒落に感じたられた。
東京公演初日の前に、だいもんときぃちゃん(真彩希帆)が退団の発表をしていたので、期待とともに『大切に観よう』という気持ちを持って、観劇の日を待っていました。


【全体像】

とてもとても面白くて物語に引き込まれた。特に、25年後の芝居が素晴らしかった。それぞれが格好良かった。

この作品は割とリアルな男の価値観というか、物の考え方捉え方を、ストレートに表現しているので、男役の夢夢しさからは少し距離のある世界かなあと思った。『男性キャストで観たい』と思ってしまうところがちょっと残念だった。男同士の友情や人間関係が、繊細に描かれていたからこその感想か、とは思う。きっと男の人の方が楽しくつらく、深く観られると思う。夫や恋人を連れて行って「あの場面はどう感じた?」と聞いてみたくなる作品だった。

わたしは、もう少し素朴で、トーンダウンした渋い世界観で観たかったのかも。宝塚歌劇だから、ド派手にやってこそなんだけど、大劇場でやる意味もある深い作品であるとも思ったんだけど、プロローグのギャングの群舞(だいもんはマシンガンがめちゃくちゃ似合う)やデボラのレビューもタカラヅカしていて格好良くて美しくてキラキラしたものに飢えた心が満たされたんだけど、too muchかなあと思った。

華美でなければタカラヅカじゃない。全てが足し算でtoo much!であったとは言えないのが、一幕最後のヌードルスのソロ。絶品だった。曲のテイストもお洒落で格好良かった。小池修一郎氏あるあるの『一幕ラストの大合唱』のお約束が破られ、男役・望海風斗に絶対の信頼を預けた場面だった。この作品の楽曲のワルさや格好良さは、学年を重ねた熟練のトップスターに似合っていて、作品に重厚感を与えていた。羽振りの良いギャングスターの、ピカピカに磨き上げられた革靴のような艶。
ヌードルスが阿片を吸って見る幻覚の不気味さが、好みの世界観でした。トリップした世界をやるのは、すみれコード的に大丈夫なのかとヒヤヒヤしたけど、あまり言及してる人もいないし、そんなもんかと。最後のヌードルスの銀橋、タイトルロールの歌い上げも感動的であった。いつの日かの青春を抱きしめて歌い上げる壮年のヌードルスの、なんと素敵なことよ。さよならショーで絶対に歌ってほしい。ヌードルスとしてではなく、望海風斗の物語としてこの歌を歌ってほしい。卒業が決まったトップスターが歌う曲としても、意味深く感じられたのであった。


【キャスト】

だいもんのDVっ気のある、崩れていて、様子のおかしな中堅〜二番手時代の男役が大好きだったので、レストランの貸切の場面から、妙にわくわくしてしまった。嫌がるデボラを『嘘だろ?信じられない』みたいな目で迫るヌードルスのわかってなさと、愛の重さが最高でした。男役だから、ここまでやっても怖くないんだよね。なぜだか素敵と思えるんだよね。
そして、男役が娘役にこっぴどく振られるのが大好きなので、だいもんのフラれ芸が健在だったのにもめちゃくちゃ萌えた。薔薇を散らして歌って幕!キザでクサい男役が大好きなので、だいもんが色濃く描く、青年期のヌードルスがとても輝いて見えた。ヌードルスの愛がリムジンやレストランの貸し切りや、薔薇を敷き詰めた部屋や、宝石の付いたティアラっていうのが、なんとも、せつない。
あの時代のヌードルスより、白髪交じりに地味なツイードのジャケットを羽織った彼の方が魅力的に見えるのも、せつない。壮年期のヌードルスのお芝居が、特に魅力的に感じられたのは、やっぱり二幕の終盤から。病院の場面からの引き込まれ方、自分の集中の仕方が、映画を見ているようだった。宝塚歌劇を見ている時の、いつもの高揚感とは違った感覚だった。だいもんが役を生き、役の人生を見せる芝居を、あんなに大きな劇場で、繊細に的確に、丁寧に演じていたから、こちらの心に訴えるものがあったのだと思う。
フィナーレのデュエットダンスも、本編の香りが残った演出で、とても素敵だった。この日の公演が、特別な公演だったからなのかも知れませんが。トップコンビのデュエットダンスに見出す、お互いへのリスペクトと信頼感に、日頃の人間関係の憂さが晴れるような気がして、心が洗われると思っているのは、わたしだけでしょうか。

デボラの気持ちがちょっとわからなくなってしまったところはあったのですが、柴田作品のヒロインのような存在でとても格好良かった。『琥珀〜』のシャロンの雰囲気を少しだけ感じた。フォリーズの場面は、本当に豪華絢爛で、きぃちゃんの初舞台公演『華やかなりし日々』を思い出して、キラキラしたものに飢えた心が満たされてゆくのを感じた。世界恐慌の時代や、戦争中や、混乱の世に、豪華絢爛な世界って必要なんですよ!きぃちゃんの自信に満ちた歌唱に、元気をもらった。
もう少し、デボラについて感じながらお芝居を見ることができたなら、この作品の見方も、もっとずっと変わるはず。もう一度見たいなあ…。最後のデュエットも、ふたりが歩んできた人生が描かれているようで、本当に美しかった。昔の恋を、こんな風に扱える大人に憧れます。

咲ちゃん(彩風咲奈)もやっぱり、壮年期のお芝居がめちゃくちゃ良くて、良かった(たまらん)青年期のイキりまくったギャングが、大人になって、自分の最期を決めるっていう展開に説得力があって、「ああ…」とため息をつきたくなるほどに集中した。タカラヅカにありがちな、2番手がトップに嫉妬するっていう関係に萌えの落とし所をつけるっていう趣ではなく、あくまでもマックスの人生はマックスの人生だった。というのがなんとも。男性の感想が聞きたい、と思ったのが、マックスについてなんだけど、このキャラクターがあんまり湿っぽくないのがエグいと感じて、特に「フラれた女をいつまでも引きずりやがって」とヌードルスを詰るっていうのが、リアルな男同士の喧嘩あるあるだと思ったからこそ、マックスの人生に何を見出すのかなって。あーん、わたしに男性的な視点があれば、もっと面白く傷付きながら観られたんだろうなあ。己の感性の乏しさが悔しいわい!

凪さま(彩凪翔)のジミーは、最初『ちょっと役不足なのでは?』と思ったりもしたけど、最後の色濃い裏切りを考えると、凪さまにしか出来ないお役だと理解した。マックスがジミーの事務所に逃げ込んでくる場面のスピーディーな展開を作れて、印象を強く残す。適任だったように思う。
そして、改めてショーの凪さまが好きだなって思った。このキラキラさは宝だよ。

美貌のあーさ(朝美絢)のキャロルも、やっぱり25年後のお芝居がとても素敵だった。この作品の中で、一番純粋だったのがキャロルだったんじゃないかなって思った。一番夢を見ていたのもキャロルだったんじゃないかな。インフェルノのナンバーが暗示的で、でも惚れた男と一緒なら何も怖くない!と歌う輝く若さも効いて、病院に入ったキャロルの人物像が見えてきた気がした。看護師やデボラに向ける視線がとても優しくて穏やかで、マックスが犬を殴って泣くような男なら、キャロルもまた、それに共鳴して寄り添える優しい女だったんだろうなあ、と。
全然関係ないけど、役名に『看護師(男)』っていうのがあって、わたしは感動してしまった。

他にも、印象的だった生徒について。

にわさん(奏乃はると)の壮年期のファット・モーも素敵だったんだけど、わたしは青年期のファット・モーを演じた橘幸くんに目が引かれた。同じ人が演じているように見えたのだ。違う人が演じているってわかっていても、ここに居るファット・モーは同一人物であるという、説得力があった。すごく研究したんだろうなあ。

アポカリプスの四騎士の、まなはる(真那春人)と縣千くん。まなはるが上手いのは知ってたけど、あがた君もすごく良かった。まなはると咲ちゃんとは、学年がかなり離れているのに、弟キャラに流れすぎることなく存在していたのが良かった。
ところで、すごくどうでもいいし、このブログを読んでくれる人には全く通じないネタだと思うんだけどさ。スーツで覆面してる4人組の男たちの姿に、既視感を覚えたのね。思い出せなくてモヤモヤしてたんだけど、ミッシェル・ガン・エレファントのGT400のジャケ写だった。今思い出して超スッキリした。

ギャング役として、「おお!」と思ったのはフランキー役の桜路薫くん、出てきた時から凄みのあるワルって感じで目を引いた。叶ゆうりくんのギャングっぷりも楽しみにしていたんだけど、銃弾1発で死んでしまうのが解せなかった。そんなこと言っても叶くんにはどうしようもない。でも、彼の死にっぷりのお陰で、強そうなやつを1発で仕留めるアポカリプスのワルさが際立つのである。この色濃さは宝です。

大人のギャングではないけれど、諏訪さきくんのバグジーも良かった。新人公演観たかったなあああ!!無観客でいいから、収録していただくことは出来ないのでしょうか…。

舞咲りんちゃん、早花まこちゃんは、この作品でご卒業。宝塚を見始めた頃から活躍されていて、今や組の顔となった女役さんが卒業されるのは、とても寂しく思いますが、最後の公演を見ることが出来て良かった。群衆の中にいても、絶対に見つけることが出来るヒメちゃん(舞咲りん)と、場面を引き締める芝居のきゃびぃ(早花まこ)は、最後の作品でも個性を活かして輝いていた。どうか、彼女たちが紋付袴姿で、大階段を降りることが出来ますように。

もともと綾凰華くんが好きなんですけど、今回の役はヒロインの同期生だから出せる雰囲気があって、贔屓目なしにしてもとても素敵だった。ワルじゃなくて、いいやつ。わたしはこういう役が似合う男役が好きなんだな、きっと。フィナーレで踊る姿も格好良かった。そもそも顔が良い。好き。こんなところで褒めちぎってないで、そろそろお手紙を書くべきでしょうか…。



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公演が再開されますように。

【#愛してるよ宝塚歌劇団

当日の劇場内のことを記して、記録に残しておこうかなとは思ったんだけど、わたしが書いたことが、おかしな解釈を生んでしまったら癪なので、黙っていようと思う。観劇してから「宝塚見に行ったけど大丈夫だったよ」と言えるように、体調は徹底して気をつけているし、毎日R1を飲んでいる。お肌もツヤツヤだ。腸内環境も絶好調だ。

エンターテイメントに灯をともせ。

オタクが元気に飛び回る国、日本が1日も早く帰ってきますように。
宝塚歌劇が今日も明日も、ずっとずっと、愛に溢れた世界でありますように。
そしてまた、賑わうムラで、日比谷で、マスクを外して笑って過ごしたい。