すーぱーからしちゃんねる

からしがみたものをまとめたものです。

星組東京宝塚劇場『霧深きエルベのほとり』『ESTRELLAS〜星たち〜』

【うわのそら】

贔屓の退団発表があった日のソワレを観に行ったのですが、お話に集中していながらも、なんとなく上の空で、ちょっともったいないことをしちゃったな。なので、後日ルサンクを読んでおさらいしました。


【期待】

実は、星組を観に行くのは『ガイズ&ドールズ』以来、約4年振りでした。トップスターの芸風があまり好みではなくて、「not for meかな?」と感じていたこの私が、何故『エルベ』を観に行ったかというと、潤色・演出が上田久美子先生だからです。もう本当に簡単な理由、それだけ。それに、"Once upon a time in Takarazuka.”だなんて、ワクワクするじゃないですか。芝居の鬼、上田久美子が、今の星組をどう調理するのかが観たかった。トップに就任してから、あまり役に恵まれていない印象の紅ゆずる(インド人の役は好きだったけれど、あまり宝塚的ではなかったし)でしたが、彼女にこそ、カールが相応しいから再演なのでしょう。とても期待していました。綺咲愛里ちゃんも、なかなか個人的には印象が薄くて、この作品で彼女のお芝居の真髄に触れられる予感にもワクワクしていました。礼真琴くんには、推されまくっている95期という印象がまだ抜けていなかった。そして、カイちゃん(七海ひろき)が星組に行ってから、カイちゃんらしい男役姿を観られていなかったから、観に行きたかった。
お正月のNHK放送を観てしまったので、ショーには期待は出来なくて。だってだって、中詰めのチャンピオーネORANGE RANGE)に特別な思い出がある宙担としては、複雑だったんだもん…。中村A先生、そりゃないぜ。


【霧深きエルベのほとり/全体像】

「とても良い芝居を観た」という気持ちになりました。お話の設定は確かに古いんだけれど、その古臭さが逆に新鮮。これってよくある『身分違いの恋』なんですよね。まさに”Once upon a time…”の世界。でも、なんでこんなに泣けるのか。美しく感じるのか。ウエクミ先生が大好きで十八番の愛想尽かしは、ご自身でも語られているように、日本人の琴線に触れる泣かせドコロなんですよね。ヒロインの輝くほど美しい背中を、札束でこれでもかと叩いているトップスターに気持ちが騒がしくなり、彼の心の内を想像させた上での、あの独白(正確には独白という状況ではないのだけれど)ですよブラボー。菊田一夫作品が、現代にも通じる美しく良いお芝居であることを、星組はこんなにも鮮やかに見せてくれたんですよブラボー。ミュージカル、ではなく、歌劇。素朴でシンプルな物語なのに、こんなにも鮮やか。
ルサンクを読み返しながら、こんなに台詞の多いお芝居だったかと驚きました。どこまでが菊田先生の本そのままなのかな。オタクとしては気になってしまう。

紅さんの過去のお芝居で、『リラの壁の囚人たち』の車椅子の青年ジョルジュが、恋人に怒鳴り散らす場面がとても好きだったのですが、それ以降ネガティヴな役がなく、わたしの好きな紅さんにはなかなか会えなくて。カールは別にジョルジュみたいな鬱屈した男ではないのだけれど、むしろ朗らかでめっちゃいい男なんだけれど、人間らしさを見せられる役としては、わたしは同じものを感じたわけです。
カールはマルギットと出会って、恋をして、それは彼の人生を一瞬だけでも輝かせた恋だったけれど、彼は恋に破れて再び海へと旅に出る。マルギットを口説くカールの台詞の愛らしさと優しさが、紅さんの朗らかなキャラクターにとても似合っていた。最近ではあんな江戸っ子口調、東京の下町のおじいちゃんしか喋っていないけれど、あの軽快さが格好良く聞こえてくるのだから不思議だ。
そして、カールの愛想尽かしは、とても日本的な展開で、もう一度見ることが叶ったなら、カールが手切れ金を手にする前に、マルギットの気持ちを確かめる場面でポロポロ泣いてしまっていたに違いない。シュラック家を出たカールの独白も切なくて、アンゼリカの追い打ちも切なくて、「夢のひとときに、ブラボー」と泣き歌う姿と押し迫る感情の波に圧倒された。紅さんのこういうお芝居を期待していたの。嬉しかった。
カールがヴェロニカの膝にしがみついて、おいおい泣く場面には、ルサンクを読み返して号泣してしまった。実際の紅さんは熱演し過ぎて何を言っているのかわからなかったんだけど、カールお前、そんなにマルギットのことが好きだったんだね。でも諦めたんだよね、優しいね、いい人だね、とヴェロニカの気分になるのです。ここでカールが人目を忍んでひとり男泣き、だって良かったはずなのに、ここにヴェロニカが居ることで、観客みんながヴェロニカになって、カールの心を受け止めてやれるんだよね。おいおい泣いているカールに、心を寄せることができる。ここの演出も良く出来ていて(なんか偉そうにものを言いますけれど)感心した。
カールが『鴎の歌』を朗らかに歌う姿に、彼の未来を想像できる、余韻のあるお芝居が素晴らしかった。

綺咲愛里の娘役芸ここに極まれり。と、思った。マルギットほどのお嬢様役を、こんなに違和感なくサラっとやってみせられるのは、宝塚の娘役だけですよ…!普通の女優さんにマルギットは表現できないと思うんです。あーちゃんは、ぶりっ子にもカマトトにも感じさせないで、頭が悪いわけではなく、むしろ聡明で、誰かを卑見下したりもしないお嬢様マルギットそのものだった。ただただ純粋な世界で育ってきた善人なんですよ、彼女は。マルギットがもうちょっとだけ小狡い女だったら、カールと一緒になれる道もあったかもしれないよね。と、思わせるくらいに心が真っ白。この真っ白さを気負いなくやってくれた、あーちゃんの娘役芸に感動しました。
わたしには、マルギットは純粋過ぎて、ちょっと可哀想な女の子だなと感じました。特に、怒りをピアノにぶつけるしかない彼女が、せつなかった。物に当たったり、暴言を吐いたり、いたずらに誰かを傷つけたりするような、感情の発散方法が、彼女にはピアノしかない。小さな頃から、そうするしかなかったマルギットが、かわいそうでした。そんなマルギットが、カールの生きる世界で生きられるようには見えなくなったのも、かわいそうだった。なんかね、わたしはカールよりも、マルギットの方がかわいそうだなって思ったんですよね。

礼真琴が知らない間に男になっていた。ただ、歌とダンスが上手い人だと思っていたけれど、こんなにも男役として進化していたとは…。そりゃ4年も観てなければそうなるよね、当たり前だよね。技術がある人にありがちな、テクニックで押し切るスタイルではなく、落ち着いた男役のお芝居をしているのが嬉しかった。穏やかな男性を演じていながらも、お上品な色気があって素敵でした。
ロリアンはわたしには不思議な人間だなぁという印象があって、「この人こんなに不憫なのに、どうして嘆いたり嫉妬したり、キレたりすることがないんだ」と思いながら見守っていた。この人もかなりのお坊ちゃん育ちで賢いから、誰も傷つけず、怒りとか苛立ちみたいな負の感情を、自己処理する思考回路の持ち主なんだよね。フロリアンがカールを殴ったのも、そうでもしないと彼の愛想尽くしが完結しないからではないかと。1発殴らせろ的なソレじゃなかったように見えた。
ロリアンみたいな男、身近にいたなあと、思い出しながら苦笑したりもしました。でも、わたしはお嬢様育ちではなく、優しく諭されても逆ギレしまくって泣いたり暴れたりしていたので、フロリアンとマルギットはお似合いなんだと思います(どんな感想だよ)

カイちゃんのトビアスは今回から登場する新しいキャラクターだそうですが、男としてはトビアスが一番好きです。カッコいい。男役としてのキザっぷりがカッコいい。あの水切りの「そんな相手が、いるのかい」とかさ、キザってんのか口説いてんのかわかんないくらいにナチュラルでさ、ごめんもうカッコいいとしか言いようがない。格好もキザだしさ、もうね、トビアスのカッコ良さは理屈じゃないんだわ。宙組時代のカイちゃんのイメージが抜けないので、もうアザラシじゃないお兄さまに驚いちゃったんですね。最後に、最高にカッコいいカイちゃんに会えて、嬉しかったです。

他にも、魅力的なキャラクターがたくさんいて、「貴族の友人達の中の、あの子が良い芝居していたなあ」と思ったのに誰だかわからない…みたいなことが多々あって、残念だった。不勉強だった。次のクッキング・コメディまでになんとかします。

さて、56年前にこの作品は、どのように人々の心に刺さったのでしょう。まだまだ、『身分違いの恋』がリアルだった時代なのではないかと想像します。当時のおとめ達と、この作品や恋愛についてを語り合う機会を得られたのが、ちょっと嬉しかったりして。
『エルベ』の登場人物たちが、どんな未来を歩むんだろうと想像しながら、物語を見守れるような余韻があって、「いいものを見たなあ」としみじみ感じられたのかな。この余韻って、一生モノなんだろうなあ。


【ESTRELLAS〜星たち〜/全体像】

いやいやいや、これVIVA FESTA!じゃんwwwwwwwwwって思った人だらけだと思う。わたしも思った。ネコハジャみたいな礼真琴の後にソーランするかとおもったし、シャララン鳴って天井にレーザーの光が伸びて、あきずんがせり上がってくるのか!?と思ったら瀬央だったり、そういう意味でめっちゃ楽しかった。

星組のショーが本当に久しぶりだったので、すっごく楽しかった!メイクが派手で華やかで、ダンスも力強くて「ああ、星組観てるなあ!」って感じだった。

客席降りで、目の前に降りてきた澄華あまねちゃん(初恋の男役が、あっきーなんだそうな!)が、健気に元気一杯の笑顔で踊っているのをみて、思わず「ねえ!!あっきー退団するけど頑張ろうね!!(?)」と声をかけたくなった(ダメです)(迷惑)でも、その姿に勝手に励まされたりしていた。
その程度の集中力で、頭の中はご贔屓のことでいっぱいだったわたしは、紅あいりのデュエットダンスで泣きました。なんていうか、わたし自身が「逢いたくていま」状態だったので、影デュエットの歌詞が刺さりまくってしまった。

【初タカラヅカの上司をアテンドしたよ】

この日は宙組の集合日だったので、星組を蹴ってムラに行く選択肢もあったのですが、元々この公演に上司を誘っていたので、大人しく東京で過ごす事にしていたのです。以前から「タカラヅカ見に行ってみたい」と言っていた上司を誘った時、顔を真っ赤にして「いいの!?どうしよう!?オシャレしなきゃ!!」と喜んでくれた上司に「すみません、やっぱり行けません」とは言えませんでした…。
ディズニーやジャニーズが好きで、帝劇やクリエで東宝ミュージカルをたまに見るよ、くらいの人なのですが、演目について調べてきてくれて「菊田一夫の脚本なんでしょ?」と、とても楽しみにしてくれました。
白封筒を持って亡霊のようなテンションで「推しが退団するんです…」と嘆いているわたしをお構いなしではしゃぐ上司には救われました(笑)
『エルベ』では涙を流し、『ESTRELLAS』では総見席に囲まれても臆する事なく手拍子をして、とても楽しんでくれて、よかったです。

【わたしはげんきです】

前回、感傷的なポエムでしかない記事を勢いで上げてしまい、しかもそれをたくさんの方に読んでいただき、ありがたいやら恥ずかしいやら。どうもありがとうございました。
思いつく限りの楽しいことを実行して、贔屓の退団公演を思いっ切り楽しむために、色々と準備しているところです。寂しい気持ちもあるけれど、ワクワクしている時の方が多いかな。

これからも生ぬるい目で、見守ってくださると幸いです。